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「遠野物語」 森山大道
投稿日 : 2008/06/09 16:20
投稿者 久保田r
参照先
2007年4月12日 光文社

 1976年朝日ソノラマ刊行「現代カメラ新書 遠野物語」を再編集し文庫本にて発売。150ページ超に及ぶ遠野の写真の後に編集者がまとめた森山大道氏の談話があり(この談話は本人による大量の加筆訂正が施され、森山氏の写真に対する考え方が篤と綴られている)、締め括りにはグラフィック・デザイナーの鈴木一誌による解説が収録されている。いわゆるフォト・エッセイ本。だが、エッセイという軽い響きからは遠い位置にある重みを感じる本。

 新刊案内の広告でこの本の表紙を見た時、最新の写真集なのかと思った。表紙の写真は、列車の窓から列車の車体を入れつつ風景を撮ったもので、いかにも森山氏らしい迫力のあるシャープな構図の写真で、特別に古さといったものが感じられなかったのだが、1976年発行の本の再編集本ということを知り、改めて森山氏の感性に感動した。およそ30年間の月日が感じられない。それは、遠野という日本の田舎を象徴する場所の写真集の為か私の中に遠野の近代的なイメージが浮かばず、その為約30年前の写真を見ても違和感を覚えなかったのかも知れないが、それでもこの表紙の写真は、心の中にインパクトを与える強さを持っている。

 「遠野物語」というと、柳田邦男が編纂した作品が思い浮かぶが、この写真集は、その世界をなぞったものではなく、森山氏が撮影の為に遠野に出かけ、列車に乗った瞬間からひたすらシャッターを切り続けたものが収録されている。差し詰め森山大道版「遠野物語」。ドキュメンタリーでありながら、心象風景を中心とした写真が多く収録されており、単なる記録写真ではない森山氏自身が遠野で感じ取った”なにか”がそこに写し出されている。言葉にも文字にも表せられない”なにか”。イメージとリアルとのギャップを正面から捉えている作品。

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