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「オトダマ 音霊」 新田祐克
投稿日 : 2007/10/29 17:26
投稿者 久保田r
参照先
<主な登場人物>

音無要(おとなしかなめ)…主人公。人並み外れた聴覚の持ち主。元科警研研究員。
永妻恭秀(ながつまやすひで)…元警部。要の相棒。永妻管理官の双児の弟。
永妻(ながつま)…警視正。要と恭秀が警察を辞めるきっかけとなった事件を仕切っていた。
唯敷(ただしき)…警視。女性。元精神科医。
古玉招映(こだましょうえい)…ネクロフィリア。9年前要を殺害しようとして未遂。

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3巻
投稿日 : 2011/04/06 16:27
投稿者 久保田r
参照先
2010年12月10日 (株)新書館 WINGS COMICS
<収録作品>
track.3 福音のタクト


 この世の音はおろかこの世のものでない音までも聞き取ることのできる音無要(おとなしかなめ)と、要の相棒で元刑事の今は探偵業を営んでいる永妻恭秀(ながつまやすひで)による、殺人事件の真相を突き止めるオカルト・ストーリー。

 要の仕事のスケジュールの組み方の手際の悪さを見かねた恭秀は、要のマネージャーの真似事を始め、男性4人によるクラシック・グループ「エゼキエル」のデビューアルバムの録音の仕事を引き受けて来る。マスタリング専門である要は渋々仕事場へと向かうが、そこで「エゼキエル」のメンバーである人平(ひとひら)から、毎朝自宅で鳴るラップ音の調査の依頼を受ける。恭秀が泊まり込んで録音したラップ音は、要の耳により「エゼキエル」のデビュー曲である「福音」のメロディーを奏でていることが分かる。「福音」の真の作曲者は誰か。要と恭秀による真相の解明が始まる。

 今作は、前作に引き続いてクラシック音楽にまつわるストーリー。不幸な事件により亡くなった要の姉と面識のある里田プロデューサーがプロデュースする「エゼキエル」のメンバーのリーダー格であった望月拓斗を捜索するというもの。「福音」の真の作曲者の立場を巡り、拓斗の性格や拓斗の両親のこと、里田プロデューサーのこと、周囲の人間関係、そして要の恭秀に対する態度にまで及んだ細かい設定により、今作も読み応えのある力作となっている。

 キャラクター設定に力があり、僅かな出番しかない「エゼキエル」の他の二人のメンバーの鷲崎や牛込にもちゃんと個性があり、主役級のキャラクターたちの基盤を固めている。また、見かけによらず負けん気のある要の性格と、物事に対して真っすぐな見方のできる恭秀の性格が事件解決に向けて息の合った絡みを見せており、ストーリーを巧みに鮮やかに展開している。

 事の発端から事件解決まで、各キャラクターの台詞に緊張感があり、一気に読み進めることができる。拓斗の音楽家の意地と、超一流の聞き取り能力を持つ要の意地の競り合い。今作も音に焦点を絞った魅力ある作品に仕上がっている。
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2巻
投稿日 : 2009/12/22 17:22
投稿者 久保田r
参照先
2009年8月10日 (株)新書館 WINGS COMICS
<収録作品>
track.2 雨音の招待状


 死者の声まで聞き取ることができる類い稀な聴覚の持ち主、音無要(おとなしかなめ)と、相棒で元刑事の探偵、永妻恭秀(ながつまやすひで、愛称ヒデ)と、ヒデの双児の兄で警視正の永妻恭優(ながつまやすひろ)の因縁の過去を描いている第2巻。

 要とヒデは単なる親友という繋がりばかりではなく、要の紹介により要の姉のヴァイオリニストの結(ゆい)の婚約者で”あった”というほど、家族並に深い繋がりのある関係。ヒデは、タフで優しく真っすぐな物の見方のできる優秀な刑事で、当時科警研にいた要と仕事を組むうちに要からヴァイオリニストの姉の結を紹介され付き合うようになる。要には、結につきまとう”生霊”の声を感じ取っており、姉の身を案じてヒデを紹介したのだが、事態はより深刻な方向へとベクトルが向かい、突如最悪な形で要とヒデに突きつけられる。連続殺人事件の捜査の指揮をしていた恭優の失策は、生涯拭うことのできない”しこり”を残した。

 要とヒデの出会いから、二人が組んで解決した事件を通し、親しくなった経緯、性格、背景までがきちんと描かれ、その上で本筋である要と要の姉とヒデの仕事の枠を超えた親しい間柄をターゲットとした事件が描かれ、三人を取り囲む人物たちそれぞれに重要なポストが与えられ、練り込まれた事件設定とキャラクター設定により、最初から最後までサスペンスとミステリーに満ちた大変読み応えのある作品になっている。200ページ超もある長編ではあるが、気がつけば一気読みしてしまうほど中味が濃く、ストーリーの展開に弛みがない。

 本当に作者の新田祐克さんは、ストーリーの作り込みが上手い。必要なキャラクターの性格付けもキャラクターデザインも上手く、各キャラクターが発する台詞に於いてもきちんと性格が表れており、言葉が吟味されている。ここまできちんと作り込まれていると、何度読み返しても同じ場面で同じように感じ取り感動することができる。

 作者は、近年、漫画家としては致命的とも言える”してはならない”ことが発覚した。今回の新刊発売にあたり、70ページ以上もの大量描き下ろしが加えられているとあるが、その描き下ろしを加えた上でこうしてコミックスとして読むと、やはり並ではない力量といったものが感じられる。あのまま作者の表現力の発表の場を失ったままにするには惜しいほどの力がある。しかし、この第2巻は、発覚前に描いたものが含まれているため、真の意味での新たなるスタートは、もうしばらくの間、ざっと年単位で必要なのかも知れない…と、私的には感じている。厳し過ぎる意見かも知れないが。

 そう思う根拠には、同人時代の作品までも含めた作者の傾向と出版業界に於けるBLの在り方が複雑に絡み合って今回のような悲しい出来事が起きたと私は感じている。作者は、単に人気があっただけではなく、開花する実力があったからこそ人気があり、当作品に結びついたと信じているし、信じたい。作者のストーリーの作り込みの意識の高さには素晴らしいものがあると思うので、漫画とは異なる小説や脚本といった文章のみの表現の世界でもきっと活躍できるのではなかろうかとも感じる。惜しまれる作者の才能を出来うる限り今後も見守って行きたい。

 追記。
 初版の冒頭のストーリー紹介のページに名前の表記ミスあり。「永妻恭優」となるべき所を、「永妻恭秀」という表記になっている。
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1巻
投稿日 : 2007/10/29 17:28
投稿者 久保田r
参照先
2007年10月10日 (株)新書館 WINGS COMICS

<収録作品>
track.0 音感過敏症
track.1 歪んだ音叉
track.2 予告

***********************

 タイトルの「オトダマ 音霊」とは、読んで字の如し「音」の「魂」のこと。日本には古来から言葉に宿ると信じられた不思議な働きを表す「言霊(ことだま)」という言葉があり、当作品は、人の声も含めた可聴領域内外の全ての「音」の「霊」を人並み外れた聴覚の持ち主である主人公の音無要が聞き取り、事件を解決に導くというもの。

 第1話に当たる「track.0 音感過敏症」は、若い女性が数回の無言電話の後に毒殺され、歩道橋に吊るされるという事件。永妻管理官が仕切る警察は、犯行の手口から男性と推測するが、無言電話に可聴領域外の音が入っていることが認められ、要はその音から犯人は女性だと言い切る。

 第2話に当たる「歪んだ音叉」は、要の存在が事件と関係している。都内のデパートと警視庁の目の前で2件の”音響爆弾テロ”が発生する。同じ頃、要は9年前自分を殺そうとした古玉招映に誘拐される。古玉にも死体の居場所が分かるという不思議な能力があり、要とは因縁の仲。2つの事件は、別件だが、どちらも要が絡んでおり、死者の声も聞き取ることができる要の能力により、解決する。テロの犯人は、意外な人物。

 作者の新田祐克さんは、自ら”職業漫画家”と名乗るほど、どの作品に於いてもその職業について徹底して詳細に描くのが特長。リアルな設定の中で作者の生み出した架空の人物がはっきりとした個性を持って活動するので、映画やドラマを見ているのと同じくらいのリアル感を味わえる。しかし、死者の声も聞き取ってしまうほどの能力の持ち主が主人公というキャラクターが漫画らしい設定だと思う。

 作者の作品については、デビューの頃からほぼ全部のコミックスを持っているが、年々作品の完成度が上がり、ジャンルを超えた素晴らしい表現者になりつつあるな…と感じていたが、本作品でこれまでのジャンルを飛び超えた本格ホラーミステリー作品を見事に打ち出した。作者の作品を読む度に、言葉を理解することの人間としての喜びを手にすることができる。台詞の一つ一つに、キャラクターの性格や人間関係、作者が作品を通して伝えたいことがしっかりと込められている。伏線の張り方も絶妙で読み応え十分。この作品は、漫画という目で読む作品から音まで感じることの出来る意欲作。
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