1999年2月10日　（株）小学館

　内海隆一郎氏の短編8本を漫画化したコミック。作画は、谷口ジロー氏。ごく普通の人々の暮らしと生き方を綴ったある8本の短編小説が、漫画となりさらに読みやすく分かりやすい作品となっている。

　原作者の内海氏は、岩手県とゆかりのある作家ということをきっかけに読み始め、人情味と温かい作風に惹かれ、今やすっかりお気に入りとなった作家の一人。内海氏の綴る作品は、その辺に住んでいそうな普通の人々が主役となっていて、日常生活の中で起こるふとした出来事に心を留め、人としての思いと触れ合い、そして温かみとちょっとした切なさが入り混じり、人情味のある描写が特長となっている心に染み入る作風。

　漫画となってもその作風に違和感はなく、むしろ美男美女などが登場せずごく普通の人々が描かれているので親しみがあって読みやすくなっている。普段小説を読むと脳裏に絵が思い浮かぶことがあるが、この漫画は、内海氏の作品を読んで思い浮かんだ絵がそのまま描かれているような自然さがある。奇をてらった大袈裟な表情のコマなどはなく、淡々としてそれでいて登場人物の背景を丁寧に絵で表現しているので、好感が持て、分かりやすくて読みやすい。幼い子供からお年寄りまで幅広い年齢の主人公の生き様が温かいペンタッチで描かれている。


＜収録作品＞
欅の木／白い木馬／再会／兄の暮らし／雨傘／絵画館付近／林を抜けて／彼の故郷

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