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「悪魔(デイモス)の花嫁」 絵:あしべゆうほ/原作:池田悦子
投稿日 : 2008/09/28 15:41
投稿者 久保田r
参照先
 少女漫画雑誌「プリンセス」(秋田書店)にて1975年の創刊号より連載された作品。長髪の頭に角があり背中に大きな黒い翼を持つデイモスが、かつて愛した妹のヴィーナスの生まれ代わりである伊布美奈子を花嫁として黄泉で待っているヴィーナスのもとへと連れて行こうとするが、美奈子の抵抗と現世で生きる美奈子の美しさに心を動かされ、ヴィーナスと美奈子との間で苦悩し続けるストーリー。1話読み切りスタイル。

 デイモスとヴィーナスの存在は神話に基づいていて、二人は海の泡から双生児として生まれ、互いに愛し合うようになり、神々の王であるジュピター(ゼウス)の怒りを買い、デイモスは恐怖の神に、ヴィーナスは黄泉の沼に吊るされ朽ちながら死んでいくという罰を与えられる。ヴィーナスが生き返る道は、生まれ変わりである美奈子の体を手に入れることだが、それを託されたデイモスは、ヴィーナスを愛しつつ生まれ変わりの美奈子をも愛したために、美奈子を黄泉へと連れていくことができない。黄泉で美奈子の体を抱いたデイモスが現れるのを待っているしかないヴィーナスは、時折美しい蝶に姿を変えて現世へ現れ、美奈子に怖い思いを味わわせる。

 当初の作品は、絵柄もコマワ割りも古めかしく、デイモスとヴィーナスと美奈子の奇妙な三角関係がメインとなっていたが、年数を経て少しずつ三角関係から恐怖ストーリーへと移行し、デイモス、ヴィーナス、美奈子の登場が少なくなっていく。でもストーリーの下地となっているのは3人の関係性で、美奈子に言い寄る男性が次々と非業な死を遂げたり、ヴィーナスが災いを持ち込んだりと多様な内容の恐怖ストーリーが展開される。時代と共に絵柄は洗練され、デイモスが格好良く綺麗になっていく。特に切れ長の目の鋭い視線は、ぞくっとするほどの美しさ。

 最近でも新作が描かれていたとのことで、シリーズは完結はしていないようだが、おそらくこの作品は、未完のままの状態の方が美しいのではないかと思う。デイモスがヴィーナスを選ぶか美奈子を選ぶかは、読み手の想像の自由に任せ、デイモスが織りなす恐怖の世界をひたすら楽しみたい。

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最終章(4)
投稿日 : 2020/04/30(Thu) 20:08
投稿者 久保田r
参照先
平成24年1月30日 (株)秋田書店 ボニータCOMICS

<収録作品>
「エンジェル・マップ(後編)」
「さびしい来訪者」

 第3巻に前編が掲載された「エンジェル・マップ」の後編と、中編読み切りの「さびしい来訪者」の2作を収録した第4巻。

 「エンジェル・マップ(後編)」は、美奈子はラスト近くに1コマのみの登場となっていて、作品の主人公は料理研究家の小暮和花という女性。和花には、アルコール中毒の弟がおり、ある夜ケンカの弾みで刺殺してしまう。それを秘書の苅部に見つかり、苅部は和花が仕事をしている間に死体を自分だけが分かる場所に隠し、和花を脅し続ける。だが、苅部は交通事故に遭って死亡してまう。弟の遺体の隠し場所が分からず苦悶している和花の前にどんぐり天使が現れる。高額な寄付のお礼にと、どんぐり天使は和花のことを遺体の隠し場所へと連れて行く。そして念願叶った和花が取った行動は…。ある意味、人間の裏の欲望が叶えられている内容で、こういうのも「悪魔(デイモス)の花嫁」らしい一面。人間に翻弄されるどんぐり天使の優しさと、傍観者のデイモスとの対比がユニーク。

 「さびしい来訪者」は、美奈子が女優の付き人となることでオカルト現象が起きるという内容。ある地方を訪ねた時、老人から道祖神の話を聞いた美奈子は同情を寄せてしまい、祀られていた少女の霊を連れて来てしまう。楽屋でスタッフと出会った少女の霊は、彼をかつて心中した恋人と思い込み、美奈子をロッカーに閉じ込めて撮影現場へと向かう。何とか脱出した美奈子は、女優の元に駆けつけて「小道具のナイフは本物」と伝えるも、混乱した女優は美奈子を階段の上から突き落としてしまう。少女の霊は、自分に優しくしてくれた美奈子を助けようと超常現象を起こす…。デイモスの活躍は、少女の霊をこの世に通したことのみ。美奈子がトラブルに巻き込まれる形で物語が進んで行き、最後に相応のオチがつくというのはよくある展開で、ある意味安定のストーリー。

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最終章(3)
投稿日 : 2014/07/03(Thu) 14:28
投稿者 久保田r
参照先
平成23年1月30日 (株)秋田書店 ボニータCOMICS

<収録作品>
「待ちぼうけ(後編)」
「青銅のビーナス」
「エンジェル・マップ(前編)」

 第2巻に前編が掲載された「待ちぼうけ」の後編と、デイモスの妹のビーナスが登場する「青銅のビーナス」と、どんぐり天使が登場する「エンジェル・マップ」の前編の3本を収録した第3巻。

 「待ちぼうけ(後編)」は、ニューヨークで人気絶頂のヘアデザイナー、シュンの日本店のオープンを間近に控え、かつて一緒に暮らしていた由加が行動を起こす内容。由加が働いているバーにデイモスが訪れ、由加はデイモスにカクテル「待ちぼうけ」を奢る。デイモスはそれを受け、事態が急激に動き出す…。バーのマスターの正体はデイモスと因縁のある死神(デス)であり、獲物を横取りされたデスとデイモスの諍いが見どころ。

 「青銅のビーナス」は、デイモスの妹のビーナスが主演のごとく登場する内容。日本で行われたカメオ展で、ビーナスはイタリアのカメオ彫刻師のヴィオと出会う。ヴィオはビーナスの美しさの虜となりビーナスをモデルにして新しいカメオを作る約束をする。遠い神話の時代のカメオの伝説を再び手に入れようとしたビーナスはこれを承諾。しかし、ヴィオはカメオではなくブロンズ像を作り始める…というビーナスの儚い美しさを堪能できるストーリー。神話の時代に大神(ジュピター)の怒りを買ったデイモスとの愛の顛末を読むことができる。

 「エンジェル・マップ(前編)」は、そそっかしいどんぐり天使が登場。天使は、下界で「天国案内図」のチラシを配るが、酔っぱらいに絡まれたところを料理研究家の小暮和花に助けられる。和花のところには美奈子が訪れており、帰宅した和花のもとに一本の不審な電話が入る…というところまで。前編とはいえほんの一つまみのページ数なので序章といったところ。どんぐり天使がどのように絡むのかが今後の気になるところ。

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最終章(2)
投稿日 : 2010/10/09 17:38
投稿者 久保田r
参照先
平成21年12月30日 (株)秋田書店 ボニータCOMICS

<収録作品>
「翅のある死体(後編)」
「待ちぼうけ(前編)」

 第1巻と股がり前後編ものとなっていた「翅のある死体」の後編と、またもや続きものの前編を収録した第2巻。

 「翅のある死体(後編)」は、主人公のフィギュアスケーターの美千留のCM撮りのシーンからスタート。美千留は、デイモスとの約束の印である黒い羽と、足の折れた天道虫を共に捨ててしまう。不安な胸中のまま撮影に臨むが、表情が固く、いいシーンが撮れない。そんな折、撮影中に衣装が引っかかってしまって破れるというアクシデントが起こる。撮影スタジオに隣接している貸衣装の店へ行くと、なんとそこにはかつて美千留がデイモスと契約を交わして呪った園子がいた。園子の足は、捨てた天道虫と同じように足の折れた形跡があり、ギプスをして歩いていた。襲いかかる樟脳の匂いに、遂に美千留は…。

 「待ちぼうけ(前編)」は、ヘアデザイナーが主人公のストーリー。ニューヨークで人気絶頂のヘアデザイナーのシュンは、かつて日本で修行をしていた頃、同じ店に勤めていた由加と一緒に暮らしていた。由加は腱鞘炎がひどく、店を解雇され、シュンは、コンクールへ出場しようとしていた。寂しさのあまり由加はシュンのハサミを壊してしまい、シュンはコンクールでモデルの髪が切れないという大失敗をしてしまう。シュンは、由加の前から消え、渡米。壊れたハサミを使いこなしているうちにファッション・デザイナーのアルサーチの目に留まり、大出世を果たす。そして、アルサーチの店が今度銀座に出店することとなり、シュンは日本へ行くことになる。切れないはずのハサミと鳴らないはずの携帯電話を持つシュンの運命は…?

 両作品とも美奈子とデイモスは通りすがりのエキストラ出演という感じ。物足りなくはあるが、嫉妬と欲望の絡んだ人間の行く末を見守るデイモスには、ミステリアスな風貌があって良い雰囲気。コマ割が大きく、キャラクターの動きなど細かいところは描かれてはいないが、全体的に詩のような空気があり、流れるように読むことができる。
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最終章(1)
投稿日 : 2009/07/23 15:49
投稿者 久保田r
参照先
2008年7月15日 秋田書店 ボニータCOMICS

<収録作品>
「華の畢」
「翅のある死体(前編)」


 ストーリーが完結しないまま長期に渡って休止状態となっていた「悪魔の花嫁」の新刊。「最終章」と銘打ってあり、今度こそ美奈子とデイモスとヴィーナスの関係に決着がつくかも…という期待の高まる待望の新刊となっている。

 とはいえ、ストーリーは、3人が直接関わる形ではなく、第三者の不幸な出来事に便乗してそれぞれの立場で関わるような内容となっていて、内容的には、休止状態に入る前の作品の雰囲気をそのまま引き継いでいるような感じ。一応、1話のラストには3人がお定まりの会話(取り戻すと約束したわね兄様?等)を繰り広げるシーンが入っているけれども。

 1話の「華の畢」は、小野小町の老衰図を巡って不幸な出来事が巻き起こるストーリー。ある美術館の学芸員が小野小町の老衰図に入れ込むようになり、千年以上前に小野小町に惚れた男性の怨念が時を超えて現れ、次第に助手として手伝っていた美奈子にも危害が及ぶようになる。

 2話の「翅のある死体(前編)」は、フィギュアスケーターの美千瑠が、演目の天道虫のように上へ上へと昇るために、ライバルである同室の園子を悪魔(デイモス)を呼び出して呪い、その後園子は忽然と姿を消し、美千瑠は期待の星として活躍を続ける──という内容。突如消え去った園子と、時折心臓に痛みを覚える美千瑠の今後の展開が気になるところで前編が終わっている。

 絵柄に関しては、長期の休止後ということで顔の輪郭や目の辺りにやはり変化が見受けられ、特にデイモスに至っては以前のような鋭利なムードが減っているように思うけれども、人間たちの身の上に起こる不幸な出来事の見届け人という風格は、依然よりも落ち着きが増しているように感じられた。ヴィーナスは、変わらず儚い美しさで描写されてあり、繊細で綺麗。待望であり念願のシリーズ再開であるので、ぜひ2巻3巻と続けて欲しい。
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