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「翳りゆく時間」 浅田次郎:選/日本ペンクラブ:編
投稿日 : 2006/10/06 15:57
投稿者 久保田r
参照先
平成18年8月1日 (株)新潮社 新潮文庫

<収録作品>
「りんご追分」江國香織
「煙草」北方謙三
「みんなのグラス」吉田修一
「スモーカー・エレジー」阿刀田高
「マダムの喉仏」浅田次郎
「天国の右の手」山田詠美
「煙草」三島由紀夫

あとがき「五感の恢心」浅田次郎
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Re: 「翳りゆく時間」 浅田次郎:選/日本ペンクラブ:編
投稿日 : 2006/10/06 15:57
投稿者 久保田r
参照先
 最初の「りんご追分」を読んで、(ああ…なるほど…翳りゆく時間ね…)と感じたアンソロジー本。短編7編が収録されていて、どれもが過去の自分と今の自分を平行して比べて過去をほろ苦く感じる小説ばかりが載っている。

 「りんご追分」には、最後にさわやかにインパクトを与えられた。オチとなるあの名曲「りんご追分」が登場するまで、文中には全く「りんご追分」に関する表現が出て来ない。最後にさわやかに「りんご追分」が流れて来て、私も主人公と同じく不意をつかれて一瞬にしてその曲に捕まった。音のない小説から音が聞こえて来そうなほどの印象だった。

 続く作品たちもどのようなオチになるのか分からないものが多い。小説とはいえ、主人公たちの過去を垣間見る楽しさは、現実の世界と匹敵する。主人公たちを取り巻く現在とほろ苦い過去の融合は、複雑な心境を生み出し、様々な五感を刺激する。選者の浅田次郎氏は、あとがきで「少くとも映像とコンピュータに支配された世の中で、人間の持つ動物的な五感がいささか衰えたのはたしかであろう」と分析し、「読者はたぶん、映画やテレビドラマでは体験できぬ小説ならではの世界を、五感で味わうことができたはずである」と書いている。これには頷くところが大部分で、この本に収められている小説たちは、目に見えるような行動でストーリーが進んでいるのではなく、主人公が歩んで来た過去と現在の心の葛藤から物語が生まれているので、自分自身で感じるしかない話ばかりとなっている。こういった小説は、想像力を養ってくれるので、読み終わった後、色々と物思いが浮かんで来る余韻のある短編集となっている。

 この本は、大人が読むとどかしらに自分と似た過去が重なってほろ苦く思うかも知れない。恋愛であったり学生時代であったり。まさしくそれが映画やテレビドラマでは体験できぬ小説ならではの五感による感じ方で、他人と共有するものではない自分だけの感覚。人生にはこういう感覚が必要だ…と思える本。
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