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「空港にて」 村上龍
投稿日 : 2007/08/27 16:08
投稿者 久保田r
参照先
2005年5月10日 (株)文藝春秋 文春文庫

<収録作品>
「コンビニにて」
「居酒屋にて」
「公園にて」
「カラオケルームにて」
「披露宴会場にて」
「クリスマス」
「駅前にて」
「空港にて」

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Re: 「空港にて」村上龍
投稿日 : 2007/08/27 16:10
投稿者 久保田r
参照先
 「時間凝縮」という手法が用いられている短編集。「時間凝縮」というのは、読むと一目瞭然なのだが、僅かな時間の流れの中に主人公の生活環境や思考が凝縮して描写されている手法のことで、約20ページの一作品の中で流れている時間はほんの僅か。コンビニで老人が一つのコーナーを歩くらいのほんの僅かの時間であったり、公園で子どもの手を引いた母親が入口から中へと入るほんの僅かの時間であったり、カラオケで歌い出すまでのほんの僅かなイントロの時間であったりと、通常の生活の中で一瞬で過ぎてしまうようなほんの僅かな時間を描いた8本の短編が収録されている。

 主人公の生活環境や思考についてたっぷりと読んだ後、作品の締めの部分に来てまだこれだけしか時間が進んでいないのか!と少々驚く手法だった。ストーリーの起承転結を手短かに読むことができるのが短編の一つの長所だとしたら、この手法はもう一つの長所だと思う。少ないページ数の中で主人公の人生をたっぷりと感じ取ることができるこの手法は、小説を読む醍醐味も凝縮されていて、読み応えがある。読み終えた後、個人の人生について考えさせられる内容となっている。

 どの作品も哀愁と希望が込められていて、人生は甘くもないが捨てたものでもないというメッセージを感じ取ることができる。「他人と共有することのできない個別の希望」とあとがきにあり、確かに個人の希望はその人個人のものだが、似た境遇から思い出したり共感したりする感覚により、読む人それぞれの個別の希望を感じさせる内容だと思う。脳は、ほんの僅かな時間にも絶え間なく何かを考え、判断している。時間凝縮は、理に適った手法なのではと、この短編集を読んで思った。
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