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「ホビットの冒険」 J・R・R・トールキン
投稿日 : 2002/05/05 21:35
投稿者 Excalibur
参照先
『指輪物語』の前日談。というよりも、本書の続編が『指輪物語』である。
主人公はホビットのビルボ・バギンズ。魔法使いガンダルフをはじめ何人かは続編にも登場している。そして、何よりもビルボが<指輪>を入手する過程がこの物語の中で描かれているので、ファンは必読。
最近は別の出版社から新訳版が出ているが、私が読んだのは昔ながらの岩波少年文庫版。児童文化史に名を残す翻訳者の手になる名著ということなのだが、「忍びの者」「つらぬき丸」「指輪ひろっ太郎」「運のよしお」「たるにのるぞう」といった訳語にどうしても馴染めない。「原文の良さを残しつつ子供向けに配慮した名訳」と言われているのだが、私には原文を日本語化しすぎて子供を馬鹿にしているとしか思えない。これは『指輪物語』の翻訳にも共通する感覚なのだが、受け止め方は人それぞれということで。
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「ホビット/ゆきてかえりし物語」 
投稿日 : 2004/02/29 00:23
投稿者 Excalibur
参照先
こちらは原書房から出版されている新訳。<第四版・注釈版>と肩書が付けられているけれども、この『ホビット』は作者自身によって何度か手を加えられているらしく、その最終ヴァージョンを底本にし、研究者の注釈を付け加えたものらしい。どこがどう違っているのかは読んでのお楽しみ・・・といっても、わざわざ読み比べでもしない限り、その違いはわからないだろう。
出版社が変わったことで訳文も一新。先に書いた通り、僕は岩波書店から出ている瀬田貞二訳にはどうしても馴染めないのだが(外国のお話なのに、まるで日本の昔話のように摩り替えられている!)、実は期待していたこの山本史郎訳も今一つの出来。「エルフ」を「妖精」、「ドワーフ」を「矮人」と表記しているのも、キャラクターの名称表記がかなり違うのも気にはなる。例えば「トーリン」が「ソーリン」に、「ボンブール」が「ボンバー」、「ビフール」が「ビファー」、「ドワーリン」が「ドワリン」、「ドーリ」が「ドリ」、「ビヨルン」が「ビョルン」といった具合で、どちらが実際の発音に近いのかは知らないが、瀬田役に親しんだ人は違和感があるだろう。
ただ一方で、「忍びの者」を「押入(バーグラー)」、「つらぬき丸」を「スティング(そのまんま)」、「指輪ひろっ太郎」「運のよしお」「たるにのるぞう」をそれぞれ「僕は指輪を獲得する者、幸運を帯びる者。僕は樽乗り」と表しているのは、面白みはない代りに普通の海外の小説(?)らしくなっているので個人的には引っかかりは少ない。これは『指輪物語』の例だが、フロド・バギンズが使う偽名「ミスター・アンダーヒル」を「山の下氏」と訳しているが、「アンダーヒル」なら外国人だが「山の下」ではまるで日本人。こういった瀬田訳の感覚にどうしても付いていけないのだ。「リヴェンデル渓谷(山本訳)」「裂け谷(瀬田訳)」あたりの訳語の選び方だと甲乙付け難いと思うのだが。
とは言っても「ゴクリ」だけ同じなのはちょっと解せない。せっかくの新訳なら原文に倣って「ゴラム」でも良いと思う。「僕チン」とか「あいちゅ」といった言葉使いにするなど新風は吹き込んでいるし、何よりも「いとしいしと」という表現も使っていないだけに。
単純に比較するならば、読みやすいのは訳文がこなれている瀬田訳の方だが、よりドライな翻訳文学感覚が味わえるのは山本訳ということになるだろうか。翻訳に「解は一つ」ということはないので、色んな解釈があって良いはず。そして読者に選択肢を与えてくれたという点で、出来映えは兎も角としてこの新訳版を「是」とするのだが、如何だろうか。
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