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「煙が目にしみる」(加藤健一事務所)
投稿日 : 2002/06/17 23:16
投稿者 久保田r
参照先
2002年5月26日(千秋楽)盛岡劇場

原案:鈴置洋孝/脚本:堤泰之/演出:久世龍之介

<配役>
野々村桂:加藤健一/野々村浩介:岸野幸正/北見栄治:坂口芳貞
野々村礼子:一柳みる/野々村亮太:岡田達也/野々村早紀:橋本奈穂子/乾幸恵:白木美貴子/瀬能あずさ:加藤忍/原田正和:松本きょうじ/原田泉:平田敦子/牧慎一郎:有馬自由/江沢務:長江英和

<ストーリー>
野々村浩介と北見栄治は、とある田舎町の火葬場で、偶然、頭には三角の布、手には数珠、全身白ずくめというスタイルで出会う。二人はにこやかに挨拶を交わし、これからの長旅に良き相棒が見つかって良かったと喜ぶ。二人の死者がこちらで出会っている頃、現実の世界でも二組の家族が火葬場で出会う。そして徐々に家族達が衝突し始め・・・。二人の死者とその家族が織り成す人間味溢れるストーリー。
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Re鈴置さんと『煙が目にしみる』の関係
投稿日 : 2002/06/17 23:30
投稿者 久保田r
参照先
 このお芝居は、1997年9月にシアターサンモールにて、鈴置洋孝プロデュースとして、死者の一人の野々村浩介役を鈴置さんが演じてスタートしたお芝居です。その後再演を重ねていて、鈴置洋孝プロデュースとしてはもちろん、他の劇団の演目としても度々演じられているお芝居です。
 私は、鈴置洋孝プロデュースの『煙が目にしみる』を見たことはないんですが、資料によると、鈴置さんの方は、女性の俳優さんがおばあちゃん役を演じていらっしゃいます。今回私が見た加藤健一事務所の『煙が目にしみる』は、男性の加藤健一さんがおばあちゃん役を演じていらっしゃいます。
 このおばあちゃん役を男性が演じるか、女性が演じるかで、同じ演目でも微妙なニュアンスの違いがあるのではないか、と、思いました。男性の演じるおばあちゃんは、舞台の上でのキャラクターというデフォルメ感が見えるのに対し、性別を同じくする女性が演じるおばあちゃんは、舞台の上のキャラクターという他にも真実味と現実味が加わるような感じを受けるのです。
 機会があればぜひ鈴置洋孝プロデュースの『煙が目にしみる』を見てみたいと思っていますが、もし私と逆に、鈴置洋孝プロデュースの『煙が目にしみる』は見たことはあるけれど、他劇団のは見たことがないという方がいらっしゃいましたら、機会がありましたらぜひ一度加藤健一事務所の『煙が目にしみる』を見てみて下さいませ。きっと微妙な違いがあって、面白いことと思います。
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不思議で身近な空間
投稿日 : 2002/06/17 23:24
投稿者 久保田r
参照先
 何とも不思議な気持ちでした。
 見始める前から見終わった後まで、何とも不思議な気持ちでした。
 葬儀というのは、おそらく結婚式以上にしきたりを重く感じさせる儀式で、もし仮に同じ時間帯に同じ火葬場で遺族同士が出会ったとしても、双方とも「葬儀」という共通の儀式を行っているが故に、決して知己を得る場所ではない筈です。それなのにこのお芝居は、たまたま同じ時間帯に、たまたま同じ火葬場で出会ったというだけの二組の家族に、出会いと衝突と和解とそれからの未来があることを演じ見せてくれました。不思議でした。本当に不思議な気持ちでした。
 この日の舞台というのが、建物のすぐ後方に盛岡でも有数のお寺が寄り集まっている、一歩外に出たらすぐにでもお線香の香りと和尚さんの説法が聞こえて来そうな場所にあります。余談になりますが、かつて高校生だった頃、私は学校帰りの帰り道に自転車でよくこの近辺を通り、友達とお喋りをしながら市内の繁華街まで寄り道をしていました。卒業してから十数年。バス通りに面した建物は幾つか様変わりしたものの、お寺の周囲の雰囲気はあの頃と変わらぬ姿のままにありました。そのお寺の横の道を通って少し歩いた所に、この盛岡劇場があるのです。
 お芝居が始まりややすると、会場内にお経を上げる和尚さんの声がスピーカーから流れます。この時、お芝居はまだ物語の序盤で、舞台で演じる人も観客もみな、舞台上の亡くなった人を悼んでしんみりとしている段階で、じっと椅子に座ってお経の声を聞いていると、まるで劇場のすぐ近くの和尚さんが来ているような錯覚に陥りました。場所的に、リアルに「葬儀」を感じさせる場所でありました。
 そんな、重くしんみりと始まるこのお芝居は、栄治と浩介の二人の遺体が炉に入り、後は小一時間ほど待つだけという段階になって、あれよあれよという間に舞台が動き出します。栄治と浩介が「アチチチィッーーーッ!」と叫びながら舞台に現れるのです。そこから、このお芝居の本領、死者と生者の奇妙なドラマが演じられて行きます。
 今、炉で焼かれている最中の栄治と浩介が舞台に現われるところから、二人の家族が交わって、お芝居が進んで行きます。家族には二人の姿は見えませんが、唯一浩介の母の少しボケが来ている桂おばあちゃんだけに二人が見えます。このおばあちゃん役を加藤健一さんが演じていらっしゃって、生者にとっては少しボケの来たおばあちゃんでも、死者にとっては大変ありがたい達者なおばあちゃんとして、絶妙な間でもってぐいぐいと舞台を引っ張っています。
 親戚から知人まで集まって賑やかな浩介の遺族と、娘と近所のレンタルビデオ店の店長しか来ないひっそりとした栄治の遺族。栄治の方がひっそりとしているのには、それなりの理由があって、その理由がきっかけで二組の家族が衝突します。ですが、その衝突はやがて、桂おばあちゃんの尽力で和解へと進んで行き、これからも仲良く暮らそうというエンディングへと進んで行きます。死者となった二人と、残された家族達の様々な思い。火葬場という特別な場所で出会った二組の家族が演ずるドラマは、形式張った葬儀からは見えない、本当の死者への「思い」が見えるお芝居であると思いました。
 舞台の終盤で、加藤健一さんが岩手銘菓の「南部せんべい」を進行中上手く溶け込むシーンで出して見せたり、傍役でありながらきっちりとリアリティのある夫婦を演じた松本きょうじさん、平田敦子さんのお二人が、お芝居とストーリーに如実に深みと現実感を与えているように思いました。誰しもが一度は体験するであろう「葬儀」という不思議な身近な空間。親近感を持って見ることが出来たお芝居でした。
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