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『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』 牧村康正+山田哲久
投稿日 : 2016/03/21(Mon) 19:41
投稿者 Excalibur
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今まで自分が聞いてきた西崎プロデューサーの逸話というと、「宇宙戦艦ヤマトの乗組員たち」や「オールナイトニッポン」などのラジオ番組で自ら語ったものや、「キネマ旬報」(特に「完結編」公開時の)などの特集記事、松本零士を筆頭に藤川桂介ら脚本家、舛田利雄、石黒昇、富野由悠季ら演出家、安彦良和らアニメーターなどメインスタッフから、主に「宇宙戦艦ヤマト」という作品の製作現場を通してのものや、あるいはいわゆるゴシップ本の類のものからに限られていたので、今回のように側近、秘書、腹心の部下といったいわば身内からの証言が多く盛り込まれているのはかなり新鮮でした。

それに、ここまで「宇宙戦艦ヤマト」製作の裏側を暴露した書籍は存在しないと思いますのでその点は大いに尊重したいところですが、内容については今まで聞いた話と違っていたり、記憶違いや勘違いかなと思うような証言、記述もあり物足りなく思う点も幾つかあります。

例えば映画化に異常な執念を燃やしたとされる『汚れた英雄』に関する記載が、「本気で取り組んだ形跡は見られず立ち消えになった」で片づけられていることには違和感を覚えました。
確かこれは一連の”山友事件”のせいで資金が必要となり、泣く泣く映画化権を手放す羽目になったとのこと。ライバル関係にあったとされる角川春樹に渡すにあたって相当忸怩たる思いがあったようにも聞いています。
また総じて実写映画には消極的だったかのように受け取れますが、実際には『北壁に舞う』や『わが青春のイレブン』へ音楽プロデューサーとして参加していますので、この辺りの経緯が欠落しているのはやや残念に感じました。

しかし表紙の写真からは悪意しか感じられませんが、中身は面白くて一気に読んでしまいました。
形の上では西崎プロデューサーの「功罪」を取り上げている体裁にはなってはいますが、実際のところフォローは皆無に近く、糾弾するだけ糾弾する姿勢は如何なものかなと思わないでもないですが、事故死からそろそろ5年、もういいだろうと皆が判断したのでしょうね。
存命中ならとても口に出せなかったに違いありません。
そもそも、破産からの覚せい剤に重火器所持で塀の中の人になった途端に悪評が広まり、原作権を巡る法廷闘争が持ち上がった時には滑稽に感じたものです。
よっぽど腹に据えかねたのでしょうが、些かフェアではないなと思ったのも確かです。

中には、そんなに一緒に仕事をするのが嫌ならせめて『完結編』の時点で縁を切れば良かったはずなのに、その後もズルズルと『誕生篇(企画初期段階の『復活篇』)』や『オーディーン』、『デスラーズ・ウォー』、『妖星伝』等々に(一時的とはいえ)関わったのか不思議に思う方もいらっしゃいますが、その真意は如何に。
むしろ喧嘩別れした筈の富野由悠季、安彦良和両氏のコメントが擁護派のものに思えるくらいなのは皮肉です。

純粋な「宇宙戦艦ヤマト」のファンは読まない方が無難です。
また「宇宙戦艦ヤマト2199」から興味を持たれたような新しいファンにとっては、おそらく興味を引く内容ではないでしょう。
それに、前述したようにこれまでに伝わって来た逸話との相違点もあって、資料的価値も高いとは言えませんし、せめて年譜なり作品リストなりは付加すべきでだったしょうね。

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完全版
投稿日 : 2019/07/01(Mon) 21:39
投稿者 Excalibur
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2015年9月にソフトカバーの単行本として刊行されたものを加筆・修正し、2017年12月に文庫化したもの。
「宇宙戦艦ヤマト2199」の総監督を務めた出渕裕のインタビューや、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」の山崎貴監督の解説などが貴重。

西崎義展が存命だったならば「2199」は実現しなかった――然もありなん。
また「復活篇」が最優先だったからか「バトルシップ」の現場には不介入だった――これも頷ける話。
もし一から十まで口を挟んでいたら、果たしてあのような作品になっただろうか。
いや、無事に完成したかどうかも怪しい。

また本書では語られていない「バトルシップ」での樋口真嗣監督降板の真相だが、この時点では何らかの介入があり、それの一因だったのでは?と勘繰りたくもなる。

ともあれ「本書では、西崎の『正』も『負』も描いている」との宣言とは裏腹に、ほぼ「負」で埋められている印象は変わらない。
いつの日か違った立場から、もう少し客観的な視点で「宇宙戦艦ヤマト」の製作過程が語られたら…?という思いも変わらずに持っている。

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