「陰陽師」
投稿日 | : 2001/11/12 20:54 |
投稿者 | : Excalibur |
参照先 | : |
短編連作である原作小説からいくつかのエピソードを抽出し、オリジナルキャラクターを加えて再構成。原作者推薦の野村萬斎を安倍晴明役に迎えての映画化である。
この、晴明役に野村萬斎を起用した配役、これが作品に対する好悪を分けてしまう。
原作のイメージに相応しいかどうかはさておき、少なくても岡野玲子描くところの漫画版に親しんだ人ならば左程違和感なく受け入れられるのでは、と思うのだが、原作者公認とはいえこのビジュアルイメージに馴染めなければ、この作品はおそろしく魅力に乏しい凡作と映るだろう。それだけこの映画は萬斎=晴明に負うところ大である。ルックスのみならず、その身のこなし立振舞い全てにある種の風格というか品をもたらしているからだ。
対する真田広之はどうか。狂言という古典芸能にどっぷりと浸っている野村萬斎とはまた違ったリズム感を持っているのが、真田広之という役者の大きさである。勿論これは、肉体を使って表現するという役者の基礎を、長年JACで培ってきた成果であるが、この二人の絡みには対照的ながらもある種共通のものも感じられる。悪役としてはやや迫力不足かなとも思えたのだが、どうしてどうして貫禄たっぷり。この二人の役者のぶつかり合いを見るだけでも、充分に愉しめる。そして「声」――声色というか声音というか、「声」もまた役者にとっては大事な武器になるのだということを、二人のやりとりから改めて感じた次第である。
この二人の間で割りを食った感があるのは、源博雅役の伊藤英明。晴明と博雅は表裏一体といえるほど分ち難い存在なのだが、野村萬斎を向こうにまわすにはやや荷が勝ちすぎたか。原作にはない二人の出会いから描いているせいもあるのだろうが、どうも今一つコンビネーションがしっくりとこない。もう少し格上の役者を起用したほうが、映画としては引き締まっただろう(他にもミスキャスト、或いは不要と思えるキャラクターも散見されるのが残念である)。
予告篇では『帝都物語』もかくやという派手な構成で違和感が先に立ったが、本編では映画ならではの仕掛け(大掛かりなアクションや視覚効果など)はあるものの、全体としては原作の淡々とした味わいは損なってはいない。ストレートな活劇物としても作れる素材ではあるが、敢えてそうはせずに辛うじて原作のイメージの許容範囲内で収めきっている。
作品データ