「誘拐」
投稿日 | : 2000/11/12 22:54 |
投稿者 | : Excalibur |
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オープニングの空撮シーン、繁華街での大々的なロケーション。それだけでこの作品への意気込みがひしひしと伝わってくるのだが、ヒットには結びつかなかった。あれだけ前評判が高かったのに、である。一番映画を見ない、と言われてる男性の中高年層をターゲットにしたからだとか、実際に誘拐事件が起きた直後の公開だったというタイミングの悪さだとか、色々な分析はされてはいるが。
白昼堂々の大企業の重役誘拐事件。犯人は人質の身代金として三億円を請求し、その運び屋としてグループ内の別会社の重役を指名、更にそれのTV中継をも要求してくる。ユニークな誘拐事件の物語と見せかけて、一転、後半は社会派ドラマへと一変する様変わりの妙。たたき上げのベテラン刑事を重厚に演じる、渡哲也の圧倒的重量感。対するロス帰りの若手エリート刑事を熱演する、永瀬正敏のリズミカルな躍動感。二人の間の潤滑油かつ緩衝材となる、酒井美紀のリアルなようでリアルでない不思議な存在感。それらを掬い取った大河原孝夫の演出、とどれをとっても一級と呼べるだけに、この興行成績は真にもったいない限りである。
残念なことといえば、終盤の謎解きの過程で、犯人の心の動きが不明瞭なこと(遂行中にどんな心理状態であったのかと、その結果としての現在の心理描写との対比)と、やや唐突なラストシーン。小説版では、犯人が取調べ中に倒れた、という描写があるが(シナリオにもない)本編では割愛。時間経過も曖昧で、繋がりが悪い点か。
それでもこれらの欠点を割り引いても堂々たる風格の大作であることには変わりはない。こういう作品を見ると、日本映画界もまだまだ捨てたもんじゃない、という気分にさせてくれる。
(1997/6/14 新宿コマ東宝)
作品データ