「最愛の大地」
投稿日 | : 2017/05/08(Mon) 14:25 |
投稿者 | : 久保田r |
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<スタッフ>
監督:アンジェリーナ・ジョリー
製作:アンジェリーナ・ジョリー、グレアム・キング、ティム・ムーア、ティム・ヘディントン
製作総指揮:ホリー・ゴライン=サドウスキ、マイケル・ヴィエイラ
脚本:アンジェリーナ・ジョリー
撮影:ディーン・セムラー
編集:パトリシア・ロンメル
音楽:ガブリエル・ヤレド
<出演>
ザーナ・マリアノヴィッチ/ゴラン・コスティッチ/ラデ・シェルベッジア/ヴァネッサ・グロッジョ/ブランコ・ジュリッチ/ニコラ・ジュリコ、他
2011年 R15+
Re: 「最愛の大地」
投稿日 | : 2017/05/08(Mon) 14:28 |
投稿者 | : 久保田r |
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ハリウッドの人気女優、アンジェリーナ・ジョリーの初監督作品。製作、脚本も手がけている意欲作。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を舞台としており、戦争によって引き起こされる非道さを描く。
ムスリム系の画家の女性アイラは、子供が生まれたばかりの姉と共に暮らしていた。ある夜、セルビア系の警官の男性ダニエルとのデート中に爆発テロに遭い、その日を境にふたりの境遇は一変する。4ケ月後、セルビア軍兵士らはムスリム系住民らを強制連行し、男性たちは射殺され、女性たちは兵士の宿舎へと連れて行かれる。宿舎でアイラを見つけたダニエルは、今やセルビア軍将校の立場となっており、権力でアイラを庇護する。ただ一人最悪の事態を免れる立場となったアイラであったが、その胸中には複雑な思いが広がっていた。
作品の舞台となっているボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のことについては、何一つ正確にきちんと理解することができない。日本という四方を海に囲まれ戦争を放棄した国に生まれ育った自分には、頭の中だけでも分かった振りをすることができない。悪いが遠い国の出来事に思えてしまう。しかし、テレビから流れるニュース番組で情報だけは耳から入って来ていたため、実際に起きていたということだけは知っている。その紛争の渦中を描いているこの作品は、自分には理解し難い暗くて凄惨且つ思わず目を覆いたくなるほどの惨状の連続であった。
作品が描いているテーマは女性の監督だから出来たことであろうし、だからと言って一も二もなく賞賛するような内容でもないだけに、非難をも受け入れる度量と勇気の必要なハードな作品であることは確か。人間が人間に対して行う惨たらしさを映し出している映像の連続は、アンジェリーナ・ジョリーというネームバリューとタイトルの醸す甘さに誘われて生半可な気持ちで見ると苦い思いを味わうかもしれない。
見ていて感じたのは、目を背けたくなるほどの憎しみと復讐の連鎖と性的暴行を繰り返し描く一方で、アイラとダニエルのふたりのシーンはことさらアーティスティックに美しく描いていたこと。アイラが画家という設定を生かしてのことだと思うが、悲惨な戦争の中、時折差し込まれるふたりのシーンは地味な色彩ながらも美しい描写となっていて、まるで一服の清涼剤のようなほっと一息つけるシーンとなっていた。特にダンスのシルエットは印象的。
アイラとダニエルのシーンを見ていると、監督は男女の愛の美しさと尊さを信じているのがわかる。と、同時に人には同じくらい譲れないものがあることも。監督自身はどちらに重きを置いているのかは分からない。衝撃の結末を見ると、あまりの救われなさに押しつぶされそうなほどの切なさでいっぱいになる。
作品の主役は、アイラを演じたザーナ・マリアノヴィッチであるが、彼女の相手役を務めたたゴラン・コスティッチが、印象に残るとてもいい表情を見せている。美男というわけではないが、目に力のある良い雰囲気の演技だった。
追記。
この作品は日本ではほとんど話題にならなかったように思うのだが、その理由を自分なりに考えてみると、日本は慰安婦問題を抱えているからではないだろうか。となえると、多分に政治的メッセージを発信している作品だと言えると思う。