
投稿日 | : 2011/07/23 16:43 |
投稿者 | : 久保田r |
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クラシック音楽に生きるキャラクターたちを描いた作品。舞台となっている場所は、オーストリアのウィーン。主人公は、ハンネス・ヴォルフガング・リヒター。通称ウォルフ。幼い頃に両親と死別し、孤児院に預けられるが、リヒター夫妻に引き取られ、後に夫妻の伯父である、もと伯爵家の後継者のリヒター伯のもとで音楽家としての道を歩む。ウォルフの音楽の才能は、モーツァルトの再来と言われるほど天賦の才に恵まれており、少年の頃から巨匠(マエストロ)と称され、わずか12歳の頃にピアニストとしてデビュー(この時の演奏曲はベートーベン「皇帝」)。18歳にしてヴィレンツ交響楽団の指揮者に就任するが、生まれつき心臓奇形の病気を持っていたウォルフは度々発作を起こすほどに病弱であり、21歳の若さでこの世を去る。亡くなる4ケ月前に幼なじみのローラと結婚し、一人息子のアレンがいる。この作品は、音楽の天才、ウォルフとそのまわりの人々のエピソードを綴った物語。
ウォルフと最も近しかったのは、バイオリニストのエドアルド・ソルティ。通称エドナン。スペイン出身で、貴族であったが、幼い頃に連れられていったオペラハウスでウォルフの演奏を聞いて虜となり、独学でバイオリンをマスター。独学のためでたらめの運弓法であるがその音色は素晴らしく、ウォルフの興味を引きつけ、紆余曲折を経てウォルフの晩年には、二人で演奏会を開くようになる。ウォルフの妹のアネットと結婚。長男のニーノと長女のフェルがいる。
このウォルフとエドナンの二人が、作品の要。二人を引き合わせる音楽家評論家のホルバート・メチェック、ウォルフの妹のアンリエット(アネット)、ウォルフの幼なじみのローラ、ウォルフのマネージャーのアダムスらが、常にウォルフのそばにあり、ウォルフの人生に寄り添うようにして彼らの人生が紡がれている。
私がこの作品と出会ったのは、中学生の頃。その年齢の頃には音楽鑑賞の趣味を自認していたので、友人の薦めで初めて読んで一目で惚れ込み、以来ずっと私の中の竹宮作品のナンバー1。他に多くの代表作がある竹宮惠子さんであるけれども、壮大なスケールの作品よりも私的にはずっとこちらの「変奏曲」を深く好んでいる。類い稀な音楽の才能を持つ少年が、自分の死期を悟り、音楽家として開花し、大成功を収めるまでの切なく儚い運命が実に魅力的で、何度読み返しても初めて読んだ時と同じ感動でこの作品の世界観に深く魅了される。この作品は、同じエピソードを別のキャラクターの目線から同じシーンを描写するなどの手法が用いられてあり、ウォルフの人生のエピソードを行きつ戻りつしている点が、より世界観を深く掘り下げている。そのため、中編と短篇による構成でありながら、確実にウォルフを取り巻く小宇宙が形成されており、大作に匹敵するほどの吸引力がある。と、私は信じている。
この作品は、ウォルフとエドナンの息子たちへとストーリーが繋がっている。ウォルフの影は、息子たちの上に絶対的な存在として君臨しており、周囲の多大な期待を受けて彼らは苦悩する。エドナンの息子のニーノを助けるボブと、ウォルフの息子のアレンに執着するエドナンの複雑な関係。彼らのストーリーは動き出したばかりの形で止まっており、未完状態。作品に惚れ込んだファンの一人として、続きが気になるところ。