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「大奥」 よしながふみ
投稿日 : 2005/10/19 11:33
投稿者 久保田r
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2005年10月4日 (株)白泉社 JETS COMICS

 この漫画はトンデモない発想の転換と発想の凝縮で描かれている。先ずは、男女の立場の逆転。これがメインのトンデモない発想であるが、単に男と女の立場を入れ替えただけではなく、女性が一家の主となり一国の主となる土壌と成り立ちを始めにきちっと描いている。これがなくては、このよしなが版『大奥』は進みようがない。正体不明の疫病が流行り男の数は激減。女性が男性を買う時代へ。女性の数に対し絶対的に男性が足りないという世の中になり、女性が一家の主となり世の中の主となる。そう、この漫画では将軍は女性であり、大奥に務めているのは男性ばかりということになる。

 女性らしさ男性らしさという固定観念にがんじがらめであったり、男として生まれただけで人生勝ち組と信じて疑わない人や、男女同権について考えることが出来なかったり、セクハラの意味を理解出来ないような人には読むに耐えられないことと思う。柔和な頭の持ち主と広い許容範囲を持つ人には、限りなく興味をそそられる作品だと思う。

 男だから女だからという常識を覆した男女逆転の時代劇。ここには、女性の「性」の解放が溢れていると私は信じている。「女」として生まれたことのこれまでのことがこの漫画を読むことで少しずつ解放されて行く。私は、一種の爽快感をこの漫画から得た。男性にとってもこの大胆な発想の転換がぎゅぎゅっと凝縮されたこの世界観は、新たな発見が相次ぐことだと思う。これまでの固定観念を取払い、全く新しい社会が描かれた『大奥』。現代の世にも通ずるヒントがたくさん盛り込まれている。時代劇の「もしも」を柔軟な頭で読むべし。イチ押し。星五つ。

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第14巻
投稿日 : 2020/06/24(Wed) 16:59
投稿者 久保田r
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2017年3月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 第13代将軍徳川家康が薩摩より三人目の正室を迎えた第14巻。薩摩の太守、島津斉彬の命により徳川家に輿入れすることになった今泉忠敬は、名を胤篤と改め、豪華な名品の数々と共に輿入れをした。一通りの婚儀を済ました初夜、家定と胤篤は共に床に入ったものの、二人は契りを交わすことはなかった。しかしながら、家定は胤篤の温かな人柄と聡明さを気に入り、肌を合わすことはなくとも毎夜のように閨での会話を楽しむようになり、御台と共に吹上の庭の散歩を嗜み、乗馬もできるほどに体が丈夫になった。そんなある日、腹心である老中首座の阿部正弘が病いに倒れる。悲嘆に暮れる家定を胤篤は心を込めて慰め、家定は過去に実の父との間にあった出来事を打ち明けた上で遂に二人は結ばれる。志半ばにして阿部正弘が他界。後継には堀田正睦が就いたものの国政の制御に失敗し、通商条約には勅許が必要であるとの決断をしたために家定の不興を買い老中を罷免。家定は、大老に井伊直弼を任ずる。

 政略結婚をした家定と胤篤であったが、胤篤の人柄があまりにもよく出来ており、また家定も恵まれぬ幼少時代を過ごしたせいか、警戒心が強いながらも信頼できる他人には何事も任せる度量があるゆえ、時を重ねるうちに誰の目から見ても羨むほどの真の夫婦となったことが救いとなっている内容。

 その一方で国政の方は芳しくなく、開国を迫るアメリカの要望にどう対応するかで幕府内で意見が大きく分かれており、それを取りまとめる阿部正弘の心労は計り知れないほど大きく、僅か39歳でこの世を去ってしまう。その後、家定が国政を取り仕切ろうとするものの病弱な上に御台との子を宿したために床に就くことが多く、思うように老中らを動かすことができない。大きな不安を抱えたまま井伊直弼を大老に任じたところで次巻へと続く。

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第13巻
投稿日 : 2017/01/18(Wed) 15:29
投稿者 久保田r
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2016年5月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 第11代将軍家斉から第12代将軍家慶へ、そして第13代将軍家定へと移り変わる様を描いた第13巻。女子でありながら阿部家の家督を継ぐことのなった正弘は、挨拶のために訪れた江戸城で家斉から孫娘の祥子と会うように勧められる。祥子は、将軍となるに相応しい器の持ち主で、正弘は阿部正勝を知っていたことに感銘を受ける。しかしながら祥子は父の家慶との間に「嫌な事」が長年続いていた。正弘は、祥子が将軍となる日のために優秀な人材を見つけるため陰間茶屋へと通い、瀧山と出会う。ある夜、大奥の御膳所が火元となって江戸城の一部が焼失する。広大院の采配により家定のための奥が作られることとなり、総取締に瀧山が就くことになる。かくして家定は家慶の嫉妬に絡んだ嫌がらせを受けながらも、老中首座となった正弘と共に政に関わってゆくようになる。

 赤面疱瘡がほぼ根絶となり、男子の数が女子と変わらぬようになり社会の仕組みが大きく変わろうとしている中、江戸城では家斉の母の治済の血の繋がりによってどろどろとした人間関係があり、思わず目を背けたくなるほどの闇が描かれている。この「大奥」では性に関して一線を越えた関係が幾度か描かれているが、それもまた時代背景に必要な描写として組み込んでいることに勇気を覚えるしだい。江戸城に作られた大奥のシステムを考えると、政治と性は密接な関係にあるということがよく分かる。しかしながら、濃い空間ゆえに生まれる一線を越えた関係は読む方にとっても傷を負うというリスクがあるのも確かなこと。

 第13巻の主役は阿部正弘であることに間違いはないと思うが、だがしかし家定のツンデレぶりを見ているとやはり上様が主役かと思えるほどの可愛らしさ。美しさと聡明さを兼ね備えながらも、父親のせいで日陰の人生を歩まざるを得なくなった負の部分が愛おしさを増幅させている。総取締となった瀧山にも日陰の人生を歩んだ時期があり、その経験を正弘に買われて大奥へとやって来た。次巻からはついに篤姫(男性)が登場。怒涛の幕末が幕を開ける。

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第12巻
投稿日 : 2016/12/13(Tue) 15:08
投稿者 久保田r
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2015年7月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 夜分に黒木宅を訪ねた家斉は、赤面疱瘡の治療法獲得のため黒木を江戸城へ呼び寄せたいと申し出るが、家斉の母の治済のことが気になる黒木はそれを断った。江戸城では、側室であったお志賀が名を滝沢と変えて大奥総取締となり、御台は気がふれて治済に殺された子の代わりに人形を敦之助と思い込んで大事にするようになる。しかし家斉は、男性が役職に就くことのできる天文方に黒木を据え、隠密に赤面疱瘡の治療の研究に取りかからせ、苦心の末に熊痘(ゆうとう)を成功させる。だが、家斉と黒木の関係を知った治済は、怒りから家斉と御台を毒殺しようとする。しかし、すんでのところでお志賀の盛った毒により治済が倒れ、家斉は一命を取り留める。実はお志賀と御台は共謀していたのであった。名実共に将軍となった家斉は、日本中に熊痘を徹底させ男子の数を増やすことに成功する。一方、役目を終えた黒木は伊兵衛に任せていた養生所へと帰りその一生を終えた。

 家斉と黒木の活躍が目立ち男性が主役のように見える第12巻であるが、後半の種明かしのインパクトを見ると真の主役は御台とお志賀の二人の女性であったと感じる内容。殺された子の仇を取るため怪物、治済に挑んだたった二人の母の戦いが見事に実を結んだシーンは、胸のすくような思いと共に幾重にも絡んだ江戸城内部の深い闇をも浮き彫りにしており、やや複雑な思いながらも「よくやった」と褒め称えたい展開となっている。186〜7ページの、毒に倒れた母を助けてくれと泣きながら懇願する家斉に対して見せる御台の表情が秀逸。

 赤面疱瘡根絶に一生を賭けたという点で家斉と黒木の人生には共通する部分も多いが、片や政治の視点から、片や医療の視点から物事を見ているため、熊痘成功後に両者の感覚にズレが生じているのが何とも切ない展開。致し方ないこととはいえ、人命を救うために歩み寄った二人には清しい余生を過ごして欲しかったと思えるだけに何とも寂しい。

 そして巻末にはペリーが来航し、再び女将軍となる徳川家定の登場で第12巻は幕を閉じている。

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第11巻
投稿日 : 2015/04/23(Thu) 14:21
投稿者 久保田r
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2014年9月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 赤面疱瘡の人痘に成功した面々を大奥より追放した後のことを描いている第11巻。時の将軍は第11代徳川家斉。性別は男子。幼い頃に青沼、源内らが獲得した人痘接種を受けて赤面疱瘡にかからぬ体となり、8代将軍吉宗の孫にあたる母親の治済の計らいにより将軍となった。だが家斉はお飾り将軍であり、実権は母親の治済が握っており、この治済の命令により赤面疱瘡の治療に専念していた者達を含め大奥は男性から女性へと総入れ替えとなった。かつて大奥で青沼と共に赤面疱瘡の治療獲得に挑んでいた黒木と伊兵衛は養生所を営みオランダ語を忘れぬよう日々研鑽していた。一方将軍の家斉は人痘を施してくれた青沼への恩を忘れておらず、かつて蘭学を学んでいた者たちを中奥へ呼び戻そうとするも断られてしまう。江戸城内では母親の治済が権力を欲しいままにし、暗躍を続けていた。

 男が将軍となり大奥が男性から女性へと総入れ替えとなったという点は、原点回帰という意味で納得もできるが、しかし実権を握る治済のやりようには何一つ納得の行く点がない。全てを取り仕切る立場にありながら政にも大奥のことにもさして興味があるように見えず、ましてや赤面疱瘡の治療など眼中になく、何を考え目的としているのか理解不能な人物。読み進むにつれじわじわと治済の心の暗部が描かれていき、得体の知れぬ気味の悪さに包まれる。帯に書いてる「怪物、徳川治済。」のコピーがまさにぴったり。

 その治済によってお飾り将軍とされた家斉であるが、本人はいたって心根がまっすぐで優しい人物。人痘を施してくれた青沼への恩をずっと忘れず、報いようと足掻く姿が実に健気。そんな気性だけに女性受けがよく、大奥では人気者で次から次へと子が生まれ、周囲から悲鳴が上がるほど。しかし子をたくさん生すよう命じたのは他でもない母親の治済。この治済は、たくさんいる孫に対しても理解不能な心の暗部を見せつける。

 大奥を追放となった黒木と伊兵衛らは青沼の教えを守り、源内のことも忘れず、いつかその日がやって来るのを信じて養生所を営みながら赤面疱瘡の治療について日々考えあぐねている姿がいじらしくもあり頼もしい。黒木には妻がいて男の子が生まれる。我が子のために旅に出る黒木の姿は、挫けぬ信念に溢れていて立派。その黒木の元に将軍、家斉がやって来るところで第11巻は終わっている。

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第10巻
投稿日 : 2015/04/22(Wed) 14:48
投稿者 久保田r
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2013年11月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 青沼、黒木、伊兵衛、源内らの赤面疱瘡治療奮闘記といった内容の第10巻。赤面疱瘡の予防には人痘接種するのが良いという判断に至り、源内が日本中を旅して患者を探し求め、江戸で見つけた患者を大奥へと運び込び、伊兵衛と僖助の体に人痘を接種し成功する。一方で大規模な自然災害が続けて発生するなど老中の田沼意次には試練が襲いかかり、加えて娘を刺客に襲われて亡くすという不幸が重なる。将軍の家治もまた長年毒を盛られ病に倒れ、江戸城内は陰謀が張り巡らされ不穏な空気に満ちていた。

 独学で蘭語を学んだ青沼らが人痘接種という方法に辿り着くまでのドラマが見どころ。源内と伊兵衛の過去が描かれ、赤面疱瘡の治療に何故ここまで熱心に取り組むのか、その心情が分かる生い立ちが描かれている。赤面疱瘡の治療に取り組んでいるメンバーはみな暗い過去を背負っており、それぞれがドラマチック。そして源内は、エキセントリックさとバイオレンスさも併せ持っている。源内の暮らし振りは決して善行ばかりではないが、マルチな才能を持つ天才らしい奔放さが魅力となっている。

 赤面疱瘡の人痘接種は副作用があることも分かり、今後さらなる研究が必要なところで青沼に死罪が申し渡され、残りの者は大奥より追放されてしまう。そして源内もまた…。あまりの理不尽な仕打ちに涙が込み上げる展開。黒木の渾身の叫びが胸に痛い。

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第9巻
投稿日 : 2012/12/28 17:25
投稿者 久保田r
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2012年12月10日 (株)白泉社 JETS COMICS

 第9代将軍家重の隠居から死去、そして家重の娘の家治が第10代将軍となり家重の御用人であった田沼意次を側用人としそして遂には老中まで昇進させ、赤面疱瘡治療のために平賀源内らと共に取り組むという内容の第9巻。家重は早々に将軍職を辞すると聡明な娘である家治を第10代将軍へと就かせた。家治は、政務に対して積極的かつ前向きな女将軍で、また御台とも仲がよく、側室はあくまでも子を生すためのものという関係を築いていたが、それこそが大奥本来の機能であったものの、御台にとっては少し寂しい関係であった。その寂しさを埋めたのが、大奥で行われていた蘭学の講義を聞くことであった。平賀源内が長崎より連れて来た金髪碧眼の青年の吾作は、青沼と姓を改め、大奥で蘭学の講義を続けていた。始めこそ講義を聞く者はほとんどいなかったが、インフルエンザが流行した際に適切な処置により死者を出さなかったことが評判となり御半下の者を中心に参加者が増え、また家治と御台からも高い評価を受けた。一方、平賀源内は、猟師と共に熊の猟について行き、熊と赤面疱瘡の関連に気づく。漢学の源内と、蘭学の青沼の努力により治療法獲得に向けて着々と歩んでいたある日のこと、思ったことをそのまま口にしてしまう源内は、城内で吉宗の孫娘の松平定信の怒りを買い、危うく刃傷沙汰を起こすところであった。吉宗の次女の宗武の娘である定信は、先代将軍であった姉の御用人の田沼意次のことを快く思っておらず、また松平家の養子となったことにも不満を抱いていたため、源内と意次に対して敵対心を募らせる。

 障害のあった家重による政に関する描写はほとんどないまま速やかに次の将軍の時代へと。第10代将軍となった家重の娘の家治は、殊の外聡明で綺麗な女性で将軍の器にぴったりな人物。公明正大さを持ち合わせているため、爽やか且つさっぱりとした印象であるが、吉宗の血を引いているためか人の心の機微というものに今ひとつ気づかないところがあり、御台の心の寂しさまでは気づくことができなかったよう。御台はそれが将軍の立場というものだと理解しつつも遂に孤独感は拭えず、不治の病により36歳の若さで亡くなってしまう。しかしそんな御台も蘭学の講義を聞いている時間は楽しかったのだから、青沼は思いがけないところで医療以外で人助けをしていたように思う。

 家治がそのような気性の将軍であるため大奥での恋愛沙汰は一切なく、今回の物語のメインはもっぱら赤面疱瘡の治療について。そのため色気の薄い内容ではあるが、男ばかりが集う大奥の特色を活かして大奥内で蘭学の講義を開くなど作品独自のアイデアが魅力となっている。大奥に突然やって来た金髪碧眼の吾作こと青沼は、その日を境にして大奥の歴史がガラっと変わるほどの異彩を放っている。人助けに奔走する青沼と大奥に勤める者たちとの交流が見せ場。そして、その青沼といいコンビなのが平賀源内。突拍子もない性格の持ち主であるが、これがなかなかの曲者。マルチな才能を発揮し、思ったことをそのまま口にしてしまう性格は、必然と周囲に敵を作ってしまう。そして、なんと同性愛者。松平定信の怒りを買ってしまった源内の今後が気になるところ。
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第8巻
投稿日 : 2012/12/17 16:58
投稿者 久保田r
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2012年10月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 第8代将軍吉宗の晩年を描いている第8巻。吉宗には家重、宗武、小夜姫の3人の娘がおり、次期将軍は長子の家重と決まっているものの、実は家重は身体に障害を抱えており、周囲では次期将軍には聡明な次女の宗武を推す声が強かった。しかし、吉宗は娘たちの内面性を重んじ、自らは大御所となって幕政に影響力を持ち続けたまま次期将軍には家重が就いた。そして晩年、大奥総取締となった杉下が亡くなり、幼い頃より家来としてつき従って来た加納久通より全ての事情を聞き、吉宗もまた58歳の生涯を閉じた。

 物語のスタートを飾った吉宗が亡くなったことで、壮大な歴史物語の一つの区切りがついた面持ちであるが、吉宗は家重の側近である田沼意次に「赤面疱瘡」の治療法獲得を遺言として頼んでおり、この「赤面疱瘡」が治まるまでは、この”男女逆転”大奥の物語の真の終わりはないといったところ。今後の将軍と「赤面疱瘡」との関わりが気になる。

 家重の身体の障害は、現代では何と言う病気なのかは分からないけれども、性格が歪んでいった様や醜態などを繕うことなく描いてあることにより更に歴史物語として厚みが増しているところがとても良かった。将軍=優れた人間ではないところが作品の魅力となっているし、今後将軍となる人物にはどんな性格の者が現れるのか興味が持てる。

 料理漫画家としての一面を持つよしながさんらしい展開が盛り込まれてあり、そこだけは思わず現代的なノリで読んでしまった。「きのう何食べた?」ファンにはおすすめのエピソード。よしながさんの描く料理漫画には、読むとつい作りたくなってしまう引力がある。このエピソードは、料理で人を救うという展開なのだが、そこにはやはり大奥らしい切ない男女のしがらみが描かれてあり、料理を作る者と食す者との縁が描かれている。

 吉宗の人生を振り返ると、運命とは待つものではなく作り出すものだということが切々と分かり、頷けるところもありながら怖くもあった。吉宗の人生は、吉宗自身のものでもあり、久通のものでもあった。そして吉宗は薄々そうと知りながら受け入れて生きて来た。何という覚悟と潔さ。人生の重みが伝わって来る。
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第7巻
投稿日 : 2011/09/07 16:33
投稿者 久保田r
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2011年7月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 第1巻のラストで吉宗が御右筆頭の村瀬がつけていた「没日録」と名付けられた門外不出の大奥の日記を読むという設定に沿う形で進行していた将軍家光誕生の時代から現在までを描いた内容が終了し、吉宗の時代へと突入した第7巻。

 江戸中期最大の疑獄事件と云われている「江島生島事件」の顛末が描かれている。この「江島生島事件」は、現に知られている江戸の歴史の中でも異彩を放っている事件であり、真実の焦点が今ひとつはっきりと掴みにくい事件だと私は感じているが、この男女逆転の「大奥」の作品の中でも、事件の不確かな感触といったものが巧みに描かれてあって素晴らしい内容になっていると感じた。キャラクターの性格と個性がブレることなく芯を持って描かれてあり、江島の人間性、月光院の恋心、権力に座する間部の強気さ、生島の艶っぽさといったものが見事に絡み合い、切ない余韻のある顛末となっている。

 「江島生島事件」の後は、吉宗の行動について描いている。「没日録」により男女逆転の経緯を知った吉宗は、若い医師を集めて赤顔疱瘡の根絶のために動きだし、自身が懐妊すると適当に父親を決め、出産中にも政務をこなし、大奥に父親を呼び寄せると父が紀州から連れてきた男子の中から新たな御右筆頭を決め、そして3人の女児を産み、将来は安泰かに見えたものの一番上の子の福姫がどうやら問題ありの様子…といったところで次巻へ続くとなっている。

 この先どの将軍の時代まで描かれるのかは分からないが、今後も波瀾万丈な展開が待ち受けている気配が漂っている。吉宗の手腕をもっと読みたいところでもあるし、赤顔疱瘡の根絶がどのようになるのかも案じられるところ。ますます目が離せない。
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第6巻
投稿日 : 2010/12/23 16:42
投稿者 久保田r
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2010年9月5日 (株)白泉社 JETS CIMICS

 悪法と名高い「生類憐れみの令」を出した将軍として有名な綱吉こと徳子の晩年〜家宣が六代将軍の座に就き、千代姫を産み、そして亡くなるまでを描いた第6巻。

 世継ぎを産めぬ歳となってもなお大奥の男たちと褥を共にし続けた綱吉とはどのような人物であったのか…。綱吉の人物像にドラマを見いだし且つロマンを見いだした壮大なる恋絵巻といった雰囲気の綱吉の人生の締めくくりが描かれている。歴史の授業で必ず習う「生類憐れみの令」は、その内容を聞いた瞬間から思わず馬鹿げていると鼻白んでしまうものであるが、かつて日本で実際にあったこととして受け止めて真剣に考えてみると、この愚かな令を出さずにはいられなかった将軍とは一体どのような人物であったのかと少なからぬ興味を引かれるのは確か。高い教養を身につけておりながら、次から次へと肌の温もりを求め続ける将軍。一国の主とはいえ、満たされぬ思いを抱え続けたひとりの人間としてその生涯がドラマチックに描かれている。右衛門佐との長い長い恋物語には、壮大なロマンが感じられるほど。ここに描かれている綱吉こと徳子の行いは、現代の女性にも通ずるものがあると私は感じ取った。

 六代将軍となった家宣は、家宣自身には華やか且つスキャンダラスな話題はないが、家宣を支える周囲の人間たちにはただならぬドラマがある。病弱な家宣に子を生すため、家宣の第一の家来である間部詮房は、町で喧嘩の仲裁に入って助けた左京を家宣の側室とする。左京は、武士としての習いを受け、慎ましやかに振る舞い、ついに家宣は左京との間に生した子を産む。しかし、病弱な家宣は、将軍の座に就いてわずか3年で亡くなる。残された間部と左京は…。

 武士としての教育を受けた後の左京は、礼儀正しい青年へと変貌したが、間部に助けられる以前の左京の人生たるや信じられないスキャンダルにまみれている。そのシーンを見た瞬間、胸に不快感が込み上げた。だが、実はそこに左京の男としての隠れた資質がある。側室となったのも左京の資質があったればこそ。だがその相手が将軍という大き過ぎる存在であったが故に、家宣亡き後、左京と間部は抜き差しならぬ深みへと嵌ってゆく。「江島生島事件」の序章が描かれ、第6巻は幕を閉じている。
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第5巻
投稿日 : 2010/02/18 17:19
投稿者 久保田r
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2009年10月5日 (株)白泉社 JETS COMICS

 5代将軍綱吉(徳子)の生涯を描いている第5巻。御台が京から呼び寄せた右衞門佐(えもんのすけ)は、綱吉(徳子)に直談判の末、目論見通りに大奥総取締の座を射止め、大奥内で絶大な力を得る。それを気に入らない綱吉(徳子)の父、桂昌院は、京より大典侍(おおすけ)なる男を呼び寄せて側室とするが、実は大典侍と右衞門佐は旧知の仲であり、大奥での右衞門佐の権力は揺らぐことはなかった。

 ある日、綱吉(徳子)の子、松姫が高熱を出して死去する。ただ一人の世継ぎを失い、綱吉(徳子)は急速に政への関心を失う。世継ぎを得るため桂昌院と右衞門佐は、競って綱吉(徳子)の閨に大奥の男を代わる代わる侍らせ、また、世継ぎが産まれぬのは、若い頃に生き物を殺生をしたせいであるというお告げを受けた桂昌院は、綱吉(徳子)に訴えて「生類憐れみの令」を出させるも、綱吉(徳子)は一向に懐妊することなくただただ月日だけが過ぎて行く。

 世継ぎ問題に明け暮れる大奥での出来事に応じるように、右衞門佐の境遇や、右衞門佐の部屋子となった秋本の人知れぬ過去、お伝こと伝兵衞の姉の存在、桂昌院と吉保の関係、桂昌院と有功の再会、赤穂浪士の討入り(作中では吉良上野介は女性、浅野内匠頭は男性)、綱吉(徳子)と吉宗のたった一度の邂逅のことなどが描かれ、どのエピソードを取っても男女逆転の時代の妙を存分に味わえる読み応え抜群の内容となっている。

 綱吉(徳子)の不幸は、心から愛し合える男性と巡り会えなかったことなのだろうか。色事に長け、気の強いように見える綱吉(徳子)ではあるが、こと自分に近しい男性、父の桂昌院や大奥総取締の右衞門佐を前にすると心の弱さが表れる。その反面、自分とは関わりの薄い男性の前では、将軍という立場の強さが見えることから、綱吉(徳子)は、本来は優しい性根の持ち主であろうとは思うが、優しさと厳しさのバランスが今ひとつ保たれておらず、少女の面影を持ち合わせたまま大人になったような心の不安定な将軍という生涯であった。
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第4巻
投稿日 : 2009/05/29 16:27
投稿者 久保田r
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2008年12月29日 (株)白泉社 JETS CIMICS

 三代将軍家光の名代として女将軍として立った千恵は、いつの日か男子が将軍の座を継ぐ時までの「つなぎ」の仮の措置として、家光の名をそのまま名乗った。家光(千恵)の政治的感性は優れており、大奥から解雇した100人の男を送り込み、幕府公認の遊郭として吉原を再生させるなどその手腕を発揮した。政を仕切る一方で、世継ぎについては、お夏とお玉の子をいずれも女子を出産。唯一の生涯の恋人である有功とは、有功のたっての頼みで体の関係は絶つものの、春日局以来の大奥総取締に任命。これにより安定した態勢が整ったかに見えたが、家光(千恵)は27才の若さでこの世を去る。

 四代将軍家綱には、家光(千恵)の子・千代が就任するも、家綱(千代)は、政や世継ぎのことなどよりも能や狂言などの芸術に興味があり、将軍らしい采配はほとんどなく、また世継ぎも生まず41才で没する。有功は、明暦の大火の後、家綱(千代)から寄せられる想いを断ち切るかのように大奥を去り、剃髪し、89才にて生涯を終える。五代将軍綱吉には、家光(千恵)とお玉の子・徳子が就任。綱吉(徳子)は、家綱(千代)よりも政に対して関心があったが、それは家臣・柳沢吉保の存在が大きく、綱吉(徳子)本人は、色好みの性分が色濃く表に出ている人物。その綱吉(徳子)の関心を引くために京より右衞門佐が大奥へとやって来るが、右衞門佐は、情報を巧みに操り、綱吉(徳子)のお気に入りとなり、側室としてではなく有功以来の大奥総取締の座を射止める。

 女将軍である家光(千恵)、家綱(千代)、綱吉(徳子)の3人の人生が描かれてあるが、家綱(千代)に至っては影が薄く、綱吉(徳子)に至ってはそのスキャンダラスな性癖が目立ち、一人の人間として奥行きが深いのはやはり家光(千恵)。家光(千恵)の潔い決断力には見習うべき点が多くあり、ドラマチックな人生の主人公として憧れを感じるところさえある。その家光(千恵)と有功の恋は、男女の恋愛として一つの成就の形であったように思うが、有功との間に子が生まれていれば、大奥はもっと違う方向へ発展していた筈で、有功の存在の有無が、その後何百年と続く大奥の歴史を決定付けたという点でとてつもなく大きな存在であったように思う。

 各将軍の性格を表している顔の描写がさすが。家光(千恵)の凛とした顔つき、家綱(千代)の頼りなさそうな顔つき、綱吉(徳子)の色好みを漂わせた顔つきなど、どれも特徴をよく表している。今巻最も気に入ったシーンは、明暦の大火の直後の「…まずは焼け出された者達に炊き出しをせねば…」のページ。頬に手をあて”ふぅ…”とため息をついている姿には、激動を生き抜いて来た幕閣の落ち着きと貫禄が表れている。
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「第3巻」
投稿日 : 2008/01/15 17:38
投稿者 久保田r
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 2007年12月25日 (株)白泉社 JETS COMICS

 傷ついた2羽の小鳥が身を寄せ合うようにして始まった家光こと千恵とお万こと有功の恋。二人は互いに心の深部で惹かれ合い結びつき、大奥の誰もが認める恋人同士であったが、唯一、子を生さぬことが春日局の気がかりの種であった。

 春日局は、有功によく似た男を町でスカウトし、大奥へと連れて来る。始めは激しく拒絶した家光(千恵)であったが、大奥以外に生きていく場所のない二人ゆえ、有功と自分が生きていく為に春日局の取り計らいに従う。だが、子を生さぬのは自分の体のせいだと信じていた家光(千恵)は、春日局が連れて来た男、捨蔵の子を産む。

 家光(千恵)は、姫を産んだことで一回り人間として成長したが、心はずっと有功のものだった。捨蔵は、不運な事故で半身不随となり、春日局は今度は別の男子を大奥へと連れて来る。有功は、子を生すことが出来ぬ自分の代わりにと側仕えの玉栄に「私の代わりに上様にお世継ぎを産ませてほしい」と頼む。

 家光(千恵)と有功の恋の行方に沿って、家光(千恵)の政治的手腕や、春日局の生い立ち、江戸の町の状況などが克明に描かれている。赤面疱瘡という病により男子が育たぬ未曾有の社会現象の中、何としても徳川の世を存続させようと足掻く作品独自の歴史がまざまざと息づいている。そして、春日局は遺言で有功に大奥のことを頼み、一方、家光(千恵)は、女将軍として正式に披露目されることとなり、時代はまた一つ新たな幕を上げる。
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「第2巻」
投稿日 : 2006/12/07 14:41
投稿者 久保田r
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 2006年12月4日 (株)白泉社 JETS COMICS

 三代将軍・家光が謎の流行病「赤面疱瘡」によって死去した後のことが描かれている。大奥総取締である春日局は、家光が死去したことを隠すために家光の血を引く娘を上様とし、徳川の血を残す為に作った女ばかりの大奥を今度は男ばかりの大奥に作り替えたその経緯が細かく設定され描かれている。

 春日局は家光を溺愛し、死去した後はその娘に家光の影を追い求め溺愛し、大奥に何人もの御中≠抱え何とか徳川の血を残そうとした。それもこれも徳川の為、上様の為ではあったが、それは家光とその娘の人格をも曲げてしまう行き過ぎた愛情でもあった。「大奥」はそんな春日局の意思が反映した特殊な空間であったことがこれを読むことによりよくわかる。

 お万の方とは、歴史上では家光の側室となった女性のことだが、このコミックでは、家光の娘が上様となり、万里小路有純の子息・有功が慶光院新院主として登城した際、春日局により上様のお相手にと見初められ、大奥入りするという展開になっている。後に大奥で上様が髪の伸びた有功と会った際に、万里小路の最初の一字を取ってお万と名付けた。以降、上様は有功のことをお万と呼ぶようになる。

 このコミックの世界では、上様は厳しく悲しい人生を送っている。徳川の血を引いて生まれたが故に、そこへ謎の病が流行り、女としての自分を踏みつけられながら生きることを強いられた家光の落とし子・千恵姫──。男の格好をし、大奥を一歩も出ることなく生きて行かねばならぬ上様と出会ったお万こと有功。二人の世にも悲しい恋の始まりが描かれている。
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