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「風のかたみ」 内海隆一郎
投稿日 : 2009/06/12 16:34
投稿者 久保田r
参照先
2003年1月20日 (株)光文社 光文社文庫

 タイトルに”かたみ”とあることからイメージが沸くように、全編とも高齢者と呼ばれる年齢に入った人物たちが主役となっている短編集。友人が脳挫傷で倒れたり、認知症の母のこと、学生時代の苦い思い出のある相手との再会、戦後離れ離れに暮らした姉弟、亡くなった妻の故郷、旅先でのことなど…人生経験豊富な年齢の人物たちが織りなす、ちょっとほろ苦いショートストーリーが収められている。

 心に染み入るような内容という点ではこれまでの短編集と変わりはないけれども、読んだ後にほんわりと心が温まるような感触はなく、むしろ一抹の寂寥感が小さな滲みとなって残る感触のする短編集となっている。そう感じることの理由の一つに、登場人物たちの年齢が人生の折り返し地点を過ぎた高齢者となっており、運命を受け入れていくある種の諦めにも似たムードがあり、その寛容な姿勢は高齢者としての達観さを感じるものではあるのだけど、先の見える人生の生き方といったものが文章から感じられ、多少の切なさが感じられる内容となっている。そして、登場人物たちの過去は明るくて幸せに満ちたものではなくて、やむにやまれぬ事情や失敗などの過去の出来事の上に人生があるという、人間ならば誰しもが持っているであろう苦い思い出といったものが描かれてあり、読み進めていくうちに己の人生も振り返るようなそんな思いのする作品となっている。

 全編を通して”生きること””老いること”が伝わってくる内容だが、どの作品にもドラマ性があり、読み応えのあるものばかり。中でも表題作の「風のかたみ」は、旅先での男女の出会いが描かれてあり、降って湧いたときめき感を味わえる作品となっている。

<収録作品>
ゴールデンバット/オルガンの音/残り蛍/青いバット/ショットグラス/うたごえ/妻の故郷/風のかたみ(全8編)

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