「人びとの忘れもの」 内海隆一郎
投稿日 | : 2008/07/11 17:10 |
投稿者 | : 久保田r |
参照先 | : |
1990年12月4日 (株)筑摩書房
<収録作品>
職人さんの老眼鏡/パズルのかけら/玄関の鍵/町並み/欅の木/荷馬車の音/残されたフィルム/北向きの小さな部屋/漆の匂い/窓からの挨拶/おしろいの香り/じゃがいも畑/靴下をはいた犬/頼まれ荷物/古いシャンソン/籐編みの椅子/小さな手袋/少尉の襟章/たずねびと/隣家の猫/父の絵(全21篇)
Re: 「人びとの忘れもの」内海隆一郎
投稿日 | : 2008/07/11 17:11 |
投稿者 | : 久保田r |
参照先 | : |
作者は、愛知県の生まれだが3歳〜20歳までの少年期を岩手県一関市で過ごし、深く岩手県と縁のある人物。その為か収録作品の大部分に一関市を表す「I市」が度々登場し、親近感を持って読むことができた。その他にも、人の名前や地域の名前などがイニシャルを表すアルファベットで表記されてあり、各話繋がりのない読み切りの短編集でありながらまるで作者の日記を読んでいるかのような、フィクションとノンフィクションを足して2で割ったような微妙な面持ちのする本でもあった。
この短編集のキーワードは「忘れもの」で、それは物理的な忘れ物ではなく、人々の「思い」に関するもの。毎日の暮らしの中で忘れてしまっていた過去の出来事や思いをふとしたことから思い出し、歯がゆいようなもやもやとした気分が一つのところに落ち着くまでを短いストーリーの中で綴っている。
全体的にノスタルジックな気分になるしんみりとした思いのする短編集だが、単純に昔を懐かしんでいるだけの内容ではなくて、現実の生活と絡み合いながら忘れていた思いと向き合い、その思いに付き合うことで充足感にも似た心暖まる感覚のする作品集となっている。ストーリーの決着は、必ずしも安易なハッピーなものばかりではなく、年齢を重ねることでしみじみと伝わってくる深い「思い」が込められている。大人におすすめしたい短編集。