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「孔明と卑弥呼」 田中文雄
投稿日 : 2008/03/16 12:28
投稿者 Excalibur
参照先
邪馬台国といえば「魏志倭人伝」、より正確には『三国志』の「卷三十、魏書・東夷伝・倭人」の条に記述があることが知られていますが、『三国志』に「魏」とくれば「蜀」と「呉」。ここで劉備だとか曹操だとかの名前を連想される方も多いでしょう。そして孔明の名前も。諸葛亮、字は孔明、彼は邪馬台国の女王・卑弥呼と同時代人ということになるわけで、この二人を共演させてみたいというのも一つの夢でしょう。光栄の「歴史ifノベルズ」として書かれた一冊です。
歴史の「if」物には大きく分けて二つあると思います。一つは、ありえたかも知れないもう一つの歴史を創造しようという試み。今一つは、所詮「if」の要素を組み入れても史実は変らない、あるいは結果には影響を及ぼさない、というもの。この作品は後者になります。

時期は五丈原の戦いの数年前、既に病を得ていた孔明は、己の寿命がそう長くないことを悟っています。そこへ既に曹操の手に掛かって死んだはずの名医・華佗の幻が現れ、150歳を越えてなお若々しい卑弥呼の姿を映し出して見せ、彼女が不老長寿の秘法を得ていることを教えます。劉禅を漢の正当な後継者として三国の王とするまでは、何としても死ねない。10年、いやせめてあと5年の命が欲しいと切望した孔明は、姜維を総大将、魏延を副大将、倭人との混血児である東翔を通訳兼総大将の補佐役に任命して、一万の兵を二百の軍船に乗せて倭国へと派遣する、というのが発端です。
孔明の宿敵・司馬仲達も何事かに気付いて魏の軍勢を倭国へと動かしますし、倭国も邪馬壹国(こう表記されています)だけでなく、伊都国や敵対する狗奴国の思惑が絡むという、誰が敵で誰が味方なのかわからない込み入った展開を見せます。登場人物が多いので最初のうちは混乱しますが、慣れてくればなかなか楽しめる小説です。
ただ、孔明も卑弥呼も主人公ではありませんし、二人が相見えるというシーンもありませんので、そういった点では題名に偽りありということになってしまうのかも知れませんが・・・。

ところで1970年代の中ごろだと思いますが、東宝では『邪馬台国』という映画企画がありました。
脚本は田坂啓、監督に予定されていたのは岡本喜八。原案として名前を連ねていたのは小松左京、豊田有恒、古田武彦ら錚々たるメンバーで、バガンという怪獣の登場も予定されていた娯楽映画。
バガンはこの後もモスラやゴジラの対戦相手の候補に度々挙がるほど、東宝のプロデューサー(後に社長、会長を歴任)田中友幸の思い入れの強いキャラクターなのですが、それはさておき、物語は司馬仲達に助けられた漁師の息子が、大陸の使節として邪馬台国を訪れ、そこで女王・卑弥呼に祀り上げられた少女と恋に落ちるというものだったようです。魏と呉の代理戦争に巻き込まれる邪馬台国を描く超大作ということで、これは是非観たかったところですが、どことなくこの物語との共通点が認められます。
実はこの作品のプロデューサーを予定されていたのが、本書の著者である田中文雄なのです。
という訳で、その時の幻に終った企画を元に書かれたのがこの作品ということのようです。

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