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「鏡」 源氏鶏太
投稿日 : 2007/09/15 17:31
投稿者 久保田r
参照先
平成元年7月10日 (株)新潮社 新潮文庫

 好奇心旺盛な23歳の独身女性・宮本京子の迷走する恋愛模様を描いている小説。京子には、同じ部署内に恋人がいたが、彼が盛岡へと転勤し、京子の周囲は一変した。妻子持ちでありながら京子を口説こうとする課長、京子に自分の弟と結婚するように薦める義母、喫茶店のマダムとなった義母の怪しい行動、信じていた父の隠された真実…など、次から次と起こる問題に京子は振り回され、傷つき、大人の事情というものを覚えていくという内容。

 作品の初出が昭和32年であるので、今と違い新幹線もない時代で、都落ちの象徴として盛岡が挙げられている。都会の大人たちのエゴに満ちた恋愛事情に首を突っ込み過ぎた京子は、恋人を頼って盛岡へと逃走するのだが、恋人は盛岡で新しい恋愛をしており、京子は痛い目に遭う。盛岡は、京子にとって救いの地ではなく、仕方なく東京へと戻る途中で寄った北上でも、またしても今度は父に関することでひどく心が傷つく。ボロボロとなった心のまま京子は東京へと戻り、これまでの全ての決着と立ち会うのだった。

 時代が違えば女性の心理も違うかというとそうではなく、現代の23歳の女性も当時の23歳の女性も中味はほぼ変わらないのではということをこの作品を読んで改めて痛感した。私は既に23歳をとうに過ぎた女性だが、その頃のことを思い出してみると、作品の主人公である京子の自分中心的な振る舞いには自分にも覚えがある。若さが魅力の一部となり、学生時代とは違う異性との交流に一生懸命になっていた自分を思い出す。振り返ると、羞恥と共に懐かしく思う部分もあり、幸せな未来を掴もうと自分なりに努力していたのだと今なら冷静に振り返ることができる。

 作品で描かれている京子の行動は、23歳でありながらまだ大人の恋愛を経験していない拙さがあり、それでも若さから生まれる自信で妻子持ちの課長と渡り合ったり、見知らぬ男性に積極的に近づいたり、深夜に義母の弟の部屋を訪れたりと大胆不敵な行動も見せている。精神的に幼い部分があるゆえに向こう見ずな行動を起こすのかと思えば、思慮深い一面も見せており、子供っぽいというよりも若い女性の持つ驚くべき行動力と自信が波瀾万丈な毎日を引き起こすということが作品を読んでよくわかった。女性にとって「鏡」のような作品。

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