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「郷愁 サウダーデ」 内海隆一郎
投稿日 : 2010/05/19 16:25
投稿者 久保田r
参照先
2007年2月20日 (株)光文社

 人生の折り返し点を過ぎた心身共に貫禄と落ち着きが表れ始めた年配の男性を主人公としている短編集。会社が倒産し仕事のなくなった56歳の男性、写真家として成功した男性の後ろ暗い過去、定年退職後に始めた趣味のカメラで近所に住む女子高生を年甲斐もなく隠し撮りする男性、若い頃に詐欺に遭い再び詐欺に遭った古道具商の店主、撮影で訪れたポルトガルに惚れ込み移住しようとまで思い込む写真家…などなど、様々な職種でそれぞれに人生を歩んで来た男性の物悲しい過去と切ない人生が綴られている。

 心が温まるホっとするような内容の多い内海氏の作品の中で、当短編集は、人生の裏側を窺い見るような薄暗い感触のする作品が収められている。誰しも自分の人生を振り返ると、人には言えないような思いや過去が多かれ少なかれあるもので、実際にはそういった部分が人生に深みを与えており、歳を重ねるごとに人間性となって表れてくるもの。仕事一筋で生きて来た男性が、退職後に思いもよらぬ趣味を見つけるのは、「表」の顔をメインに歩んで来た自分の人生に、厚みをつける「裏」の部分に無意識に引き寄せられるのではないだろうかと私は思う。

 当短編集は、人生の明と暗の「暗」にスポットを当て、陰の部分を浮き彫りにすることで主人公の生き様を人間性のあるものとして描いている深い味わいのある作品集。表題作「郷愁 サウダーデ」は、ドラマチックかつセンチメンタルな作品。まるで映像が見えるかのよう。おすすめ。


<収録作品>
キルトの模様(2003年10月号)/雪の林(2001年5月号)/メタルブルー(2001年8月号)/花野へ(2001年11月号)/Eメール・エレジー(2002年9月号)/ジャンク・マジック(2002年3月号)/帰郷(2001年1月号)/冬の星(2004年1月号)/郷愁 サウダーデ(2003年3月号)…「小説宝石」(光文社)初出

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