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「カラフル」 森絵都
投稿日 : 2011/05/26 16:16
投稿者 久保田r
参照先
2007年9月4日 文芸春秋

 真黄色の明るい色調の表紙が目につく森絵都さん作の思春期の少年が主人公の物語。ページをめくって最初に登場するのは、死んだ「ぼく」の魂。あの世に行く筈が、突然現れた天使に「おめでとうございます。あなたの魂は、抽選に当たり、再挑戦できることになりました」と告げられ、たった今別れを告げたばかりのこの世へと逆戻りすることに。魂が戻った場所は、自殺した中学3年生の少年、小林真の体。ガイド役の天使、ぷらぷらの説明を元に、第二の小林真の人生が始まる。

 死んだ人間の魂が、神様の抽選に当たって生き返る──という出だしの突拍子もなさと、明るく強引な天使の存在に、お気楽な気持ちで読み進めたストーリーであったが、小林真少年の身の上と家族関係を知るにつけ、どんどんと真面目な心境になり、小林真の身に降り掛かる現実的な問題と、体を借りているだけに過ぎない別人の魂との距離感が心理的なドラマを生み出しており、愛しさが感じられる作品となっていて良かった。

 読んでいて不思議に思ったのは、体を借りている魂と、器となっている体とでは、どちらに優先権があるのかということ。趣味にしろ、特技にしろ、家族や友人に対する感情など、魂の反応なのか、それとも生前の小林真の体に染み込んだ反応なのか、その辺の細かな部分が今ひとつ判別し難かったが、ストーリーが終盤を迎え、魂が生前の罪を思い出すように、これまで読んで感じた全ての違和感の謎が解き明かされてゆくにつれ、納得のいく結末となっており、改めてタイトルの意味とストーリーの本当の意味とに深い感慨を抱き、読み応えのある作品だった。

 高校受験を控えた中学3年生は、思春期として最も感受性が強い年齢であり、かつ将来を左右する重要なターニングポイントに立っている大変な時期。主人公小林真の置かれた状況は、ストーリーの上ではかなりファンタジーであり特殊な設定となっているが、読後に振り返ってみると、特別なことなどは何もなく、誰しもが身の上に置き換えることのできる内容となっていることに気づく。「生きる」ため、もしくは「生き抜く」ための心の持ちようの「コツ」が綴られている。世界の中心に自分自身を置き過ぎると、この世は何とツライことか。自分自身の置き場所を変えてみる。視点を変えてみる。ヒントがここにある。

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