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「死神の精度」 伊坂幸太郎
投稿日 : 2012/04/13 16:49
投稿者 久保田r
参照先
2008年2月10日 文春文庫

<収録作品>
死神の精度
死神と藤田
吹雪に死神
恋愛で死神
旅路を死神
死神対老女

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Re: 「死神の精度」 伊坂幸太郎
投稿日 : 2012/04/13 16:51
投稿者 久保田r
参照先
 死神が主人公という一風変わった短編6編からなる小説。人間世界での名前が千葉という死神は、死神の調査部として一週間調査対象の人間を観察し、7日目に「可」か「不可」を報告し、8日目に実行される死を見届けるという仕事をしている。「不可」が報告されることはほとんどなく、真面目な性格の千葉は、調査対象をきちんと観察したうえで「可」と報告していた。死神たちの趣味は、音楽を聞くこと。調査期間中の楽しみはCDショップなどで音楽を聞くことで、時折、試聴機のところで他の調査員たちと会うこともある。当作品は、ラジオドラマ、映画、舞台等のメディア化あり。

 死神を扱った作品ということで、読む前にはホラーのようなオカルトのようなテイストをイメージしていたが、読み始めてみたらそのような恐怖感は一切なく、風変わりな人間が主役の風変わりなドラマ作品という感触で興味深く読むことができた。千葉という名の死神は、調査対象の人間が「可」か「不可」かを判定するための調査員であるため、調査対象の人間とごく身近に接触しながら徹底して第三者の目線でクールに事態を観察しているため、冷たい存在であるかのようでありながらその実態は物事の本質のすぐ近くにいるというような冷静かつ適切な距離にいる存在。死神の千葉の行動と言動はシンプルであるため、調査対象となる人間の複雑さが浮き彫りとなり、死神の目線から捉えた人間らしさというものが味わえる作品となっている。

 死神ゆえ年齢も時代も飛び越えた存在のため、調査対象に合わせた設定で登場する。二十代前半の青年の姿であったり、四十代の中年男であったり、年齢不詳の好青年であったり。どんな姿で登場しても死神の千葉の態度は変わらず、調査対象と冷静に接触する。調査対象となる人間は様々で、あるメーカーのクレーム処理係であったり、やくざであったり、婦人服の販売員であったり。クールで淡々としたやりとりの向うに、調査対象となる人間のそれぞれのドラマが垣間見え、時に愛おしく感じたり、時に切なく感じたりするそんな作品となっている。

 人間のようでありながら人間でないという設定に、漫画やアニメのようなキャラクターイメージを抱いたが、死神の目を通して綴られる人間ドラマの描写は、小説ならではの味わいが確実にある。雨しか見たことのない死神が最後に見た晴れやかな天気。その瞬間に感じ取る物語の終わり。なかなかにスマートな作品。年齢を問わずおすすめ。
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