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「クジラの彼」 有川浩
投稿日 : 2012/05/09 15:57
投稿者 久保田r
参照先
平成22年6月25日 角川文庫
<収録作品>
クジラの彼/ロールアウト/国防レンアイ/有能な彼女/脱柵エレジー/ファイターパイロットの君


 自衛隊員の恋愛模様を描いた”自衛隊ラブコメシリーズ第1弾”。国防のために日々厳しい訓練を積んでいる自衛隊員による一般人とはちょっと違う事情の中で紡がれる甘くてベタな短編ラブストーリーが6編収録されている。

 表題作の「クジラの彼」は、潜水艦乗りとOL。「ロールアウト」は、航空自衛隊の輸送機パイロットと重工の航空設計士。国防レンアイは、陸上自衛隊の同期同士。「有能な彼女」は、潜水艦乗りと防衛省の技官。「脱柵エレジー」は、高校で付き合っていた彼女と離れ離れになった自衛隊員の苦い思い出。「ファイターパイロットの君」は、空自のファイターパイロットと重工の技術者。…という組み合わせ。

 この本を読もうと思った動機は、「自衛隊員のベタ甘ラブストーリー」という内容紹介に興味を持ったため。私は、自衛隊を扱った小説を読んだことがなく、そのうえラブストーリーものもあまり読まないので、国を守る職業の人たちの甘い恋愛とは一体どういうものなのだろうかと全くその内容が想像できないため、怖いもの見たさにも似た気分で読み始めた。

 すると、読み始めてすぐに、”一般人の恋愛とはまるで次元の異なる感覚がここでは普通の感覚として描かれている”ことに驚き、自衛隊の人が恋愛を始めることの難しさや維持することの難しさに深い感慨を覚えた次第。例えば、公務員や土日祝が休みの一般的な仕事に就いている人と一般人が休む土日祝にこそ働かねばならないサービス業の人との恋愛に於いても、休みが合わないからなかなか会えないとかちょっとしたズレやすれ違いがあるものなのに、自衛隊は、機密が多く転勤が多く危険が多く潜水艦乗りに至っては何ケ月も会えないというおよそ恋愛には不向きな特別級の専門職。でも、そこに勤めている隊員たちも人を好きになる感情をごく普通に持ち合わせている人間。好きになったら一途に相手を思う気持ちは、職業柄からか人一倍強いような感じを受けるけれども、好きになった相手のことを真剣に考えて行動する”男前”で”ベタ”で”甘い”6つの”恋愛”が、この一冊の本の中に綴られている。

 ”ラブコメ”と称されてある通り、泥沼な展開などはなく、多少悲しい出来事も切ない描写となっていて恋愛の機微を味わえる短篇集となっている。自衛隊なためか、女性の自衛隊員の話し言葉は”男前”。ついでに自衛隊員じゃなくても、登場する女性のほとんどが”男前”。会話のやりとりを読んでいると、時に彼氏と彼女のどっちの言葉なのか分からない時もままあるが、それもまた自衛隊員の恋愛の特徴かと。おすすめは、表題作の「クジラの彼」と、締めを飾る「ファイターパイロットの君」。両作とも自衛隊三部作の番外編とのことで、自然とそちらにも興味の向く魅力ある作品となっている。

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Re: 「クジラの彼」
投稿日 : 2013/08/27(Tue) 19:06
投稿者 Excalibur
参照先 http://odin2099.exblog.jp/
「クジラの彼」、「ロールアウト」、「国防レンアイ」、「有能な彼女」、「脱柵エレジー」、「ファイターパイロットの君」、6編の恋愛小説を集めた短編集。

表題作「クジラの彼」は、潜水艦乗りを彼氏に持ったOLの奮闘記(?)。
彼氏とはなかなか連絡付かないわ、厭味な上司に言い寄られるわ、とかなり苦労続きの恋愛模様。
その彼氏というのが冬原クンで、つまりこれは『海の底』の外伝。
冬原クンの、本編では描かれなかった側面や、結婚相手との馴れ初めが語られるという点でも、本編読み終わったら一読すべき一篇だ。

「有能な彼女」も『海の底』の外伝、というか後日談。あれから夏木クンと望ちゃんがどうなったか?――のドタバタ劇。
美人で仕事もバリバリに出来る望ちゃんに、引け目を感じてる夏木クンが可愛い。

また「ファイターパイロットの君」は、今度は『空の中』の「その後」。
高巳クンと光稀ちゃんカップルのやりとりが、如何にもそれっぽくて嬉しくなる。
こちらはゴールインした後で娘が生まれ、パイロットとして妻として母として、様々な葛藤を抱える光稀と、それを支え大きく包み込む高巳の、男女の恋愛だけでない家族愛も描かれていて、やはりキャラクターの幅が広がって感じられる。

他の3作品も全て主人公は自衛官で、「ロールアウト」はメーカーに務める航空機の設計士の女性と、航空機搭乗員とのラブストーリー、「国防レンアイ」は陸自の同期の男女の付かず離れずの友情そして恋愛ドラマが描かれ、「脱柵エレジー」ではちょっと大人の”良い”関係…

――という具合に、これは世にも珍しい、自衛官を主人公にした恋愛小説集なのでありました。

しかもどれもこれもが、読んでいて気恥ずかしくなるようなベタ甘な展開ばかり。
でもどれもこれも単なるラブコメじゃなく、自衛隊という一般人にはなかなかわかり難い組織の内実(?)を平易に語ってくれたりで、トリビア興味でも引っ張って行ってくれる。
『空の中』や『海の底』を読んだ人は勿論、そうでない人も一度は手に取って損はないんじゃなかろうか。

ただし『空の中』や『海の底』のような壮大な物語や世界観を期待されると、ちょっとガッカリかも……。あくまでもキャラクターを愉しむ小説だ。

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