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「阪急電車」 有川浩
投稿日 : 2012/07/09 14:39
投稿者 久保田r
参照先
平成22年8月5日 幻冬社文庫

<収録内容>
宝塚駅
宝塚南口駅
逆瀬川駅
小林駅
仁川駅
甲東園駅
門戸厄神駅
西宮北口駅

そして、折り返し。

西宮北口駅
門戸厄神駅
甲東園駅
仁川駅
小林駅
逆瀬川駅
宝塚南口駅
宝塚駅

解説:児玉清

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Re: 「阪急電車」 有川浩
投稿日 : 2012/07/09 14:42
投稿者 久保田r
参照先
 阪急今津線を走る阪急電車を舞台とした連作短篇集。区間にある8つの駅名をそのまま各短編のタイトルとして往復分の全16話を収録。

 物語のスタートは、本好きの征史がいつも図書館で遭遇する、そしていつも征史の借りたい本を一足先に借りて行ってしまうユキとの初対面から。電車の中で偶然隣り合わせた二人は、鉄橋の下の川の中州にある石を積んで作った「生」という字を見て色々と語り合う。そしてユキは電車を降りる際に「図書館によく来てるでしょう?」という言葉を発し、征史はユキを追いかけて下車する。

 征史とユキの恋の始まりのきっかけから阪急電車片道15分の物語がスタートし、婚約者を寝取られた女性の「討ち入り」や、暴力を振るう彼と別れる決意をする女性の話、亡き夫との思い出を大切に犬を飼う年配の女性と孫の話、軍オタと変わった名字の初めて同士の大学生カップルの話、5つ年上の社会人と付き合っている女子高生の話、息子が卒業した後までも続くPTAのおばさま方の話などなど…沿線に住む人々のそれぞれの暮らしや恋愛などのエピソードがさり気なく接点を持ちながらそれぞれが主役となって全16話の物語として紡がれている。

 岩手に住む自分にとって兵庫県にある阪急電車は全く馴染みのない路線であるので、本のタイトルを見た段階ではあまり興味が湧かなかったが、ネット上に書き込まれている感想の評価が軒並み高かったのと、長編というわけではなく連作短篇集ということで、物は試しと読んでみたところ予想外に自分好みのツボにどんぴしゃりとはまって今はお気に入りの一冊となった。

 会話にこそ関西弁が登場するものの、登場人物によっては関西弁を話さない会話もあるし、具体的な駅や建物については分からない部分もありつつ登場人物たちの行動や暮らし振りは一般的なそれとなんら変わりがないため、場所に特定されない物語として楽しく読むことができた。それに何より恋愛描写がとても巧みで、恋愛の切なさや甘さが抜群のタイミングで綴られており、決してハッピーな内容ばかりではないが、どんな事態になっても最後には主人公の希望が感じられる結びとなっていて良かった。

 「阪急電車」というタイトルであるけれども、ここに書いてある物語は、誰にでも思い当たることばかりであるように思う。他の地域を走る電車や路線バスなど、これと似たような光景や思いを経験したことがきっとある筈。公共の乗物を通して感じるハートフルな物語の数々。
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