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「レインツリーの国」 有川浩
投稿日 : 2013/01/18 12:46
投稿者 久保田r
参照先
平成21年7月1日 新潮文庫

 主人公の向坂伸行は、中学生の頃に読んだライトノベル「フェアリーゲーム」のことが忘れられず、インターネットでその本の感想を探し求め、あるウェブサイトで共感できる感想と巡り会う。伸行は、ハンドルネームを「伸」として自分の思いを綴ったメールを送ってやりとりを始める。サイトの管理人は「ひとみ」と名乗る女性で、「フェアリーゲーム」についてメールで熱く語り合っているうちに、伸行はひとみと会いたいと思うようになる。伸行からの「会いたい」という要望に、ひとみはかなり慎重な姿勢を取っていたが、ようやく折れて会うこととなった。初めて会った日、伸行はひとみの仕草や行動にメールの印象との違いに微かな違和感を覚える。そして映画を見た後の帰りに起こった出来事に、ついに伸行はひとみにキツイ言葉を浴びせてしまう。だが、ひとみにはそうせざるを得ない事情があった…。

 一冊の本の感想をきっかけにインターネットを通じて男女が出会うという、なんとも理想的なラブストーリーの始まりかのように見えるが、そうそう世の中は甘くなく、主人公の伸行にもヒロインのひとみにも相応に辛い過去と困難な現実があり、直面する困難に二人はどう向き合って結論を出して行くのか、伸行とひとみがしっかりとした絆を得るまでの過程を揺れる思いを中心に読み進んで行くお話。

 ひとみは、感音性難聴の持ち主で、生まれつきでなく高校生の時に登山の滑落事故で発症したもの。補聴器をつけているが、普段はそれを長い髪で隠している。そのためか健聴者である伸行と些細ないざこざが絶えず、ある日伸行の辛い過去を本人の口から聞いて以来ひとみの中に重大な意識改革が起こる。

 ひとみは障害者という枠に入るが、見た目にそうではない一般的に健常者と呼ばれる人たちにも多かれ少なかれコンプレックスは抱えているもの。そのコンプレックスをどれくらい気にしているかによって、人と会うことに躊躇いを覚えるのは至極当然のことで、人格形成にも大きく影響する。頑な殻を打ち破ってくれる人と出会い、且つその人からコンプレックスや障害などをものともしないひたむきな愛情を向けられたら、人は自ら変わろうとする力を得られるのだということをこの本を読んで感じ取った。

 二人の間にある深い溝から逃げ出さない伸行がなんと男前なことか。伸行の魅力に気づいたひとみがなんと可愛らしいことか。ぶつかりあいながら乗り越えた二人のラブストーリーはこれから。希望ある前途が窺える厳しくも優しい内容の小説。

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