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「風の渡る町」 内海隆一郎
投稿日 : 2008/11/07 16:49
投稿者 久保田r
参照先
1998年6月1日 (株)小学館 小学館文庫

<収録作品>
卯の花/アリアの家/山の上から/良蔵の牛/教え子たち/山汽車/三味の音/高い屋根/栗饅頭/アッツ島/オリオン座/渡世人/銀杏が散る/福亭の女たち/夜の火事/町の噂/川岸にて/つむじ風/閉ざされた家/それぞれの風(全20編)

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Re: 「風の渡る町」 内海隆一郎
投稿日 : 2008/11/07 16:51
投稿者 久保田r
参照先
 子供時代を岩手県で過ごした作者が、岩手県の県南の市(町)をモデルに書いたオムニバス短編集。話の舞台を単純に統一しているだけではなく、登場人物にも一貫性があり、最初に登場した人物が要所要所に登場しては一つ一つの話に奥行きを与え、話を収録順に読んでいくと作品の舞台となっている田舎町の町並や様子までもが脳裏に浮かぶような短編集となっている。

 内海さんの作品は、心に囁きかけるような独特の雰囲気があり、どんなに厳しい状況を描写しているシーンでも落ち着いて読むことのできる点が気に入っているのだけれど、このオムニバス短編集「風の渡る町」に至っては、自分が若い頃に苦手に感じていた田舎の風習や地域性、限られたコミュニティといったものがじわじわと思い出され、同感できる思いと忘れたい思いとが同時に沸き上がって来て、微妙な心持ちのする読後感となった。

 話の舞台のモデルとなっている岩手県の県南に住んだことはないが、田舎というものはどこも似たようなもので、町に住む人みんなが親戚であるかのような人付き合いや、家業を継ぐ継がないなどの家族内のしがらみなど町を存続させるための必要なものであると分かりつつも、そういったものは若い時分には重苦しく鬱陶しいものに思え、私は学校を卒業後に一度は生まれ育った町を捨てて上京した身分なので(現在は生まれ育った地域にほど近い所に住んでいるが)、この本に書いてある田舎町の出来事は、過ぎて来たものに対しての一抹の懐かしさと、その頃の苦さがオーバーラップしてリアルに感情移入してしまうという、私にとっては近過ぎる感覚のする作品ばかりであった。

 話の時代設定は、新幹線開通後となっているが、田舎町の特徴からか話の中心人物は主に年老いた人物が多く、戦後間もない昭和の雰囲気を漂わせた作品もある。そこへ「玉砕」をも知らぬ若者が登場したり、大学進学のために周囲をも顧みない息子が登場したり、一見のどかな田舎町にも時代の変化は訪れており、物語は緩やかにその葛藤を登場人物を通して囁きながら訴えるように綴られている。それはまさしく、高齢化の進む田舎町に住む人間たちの危うさを伝え、併せて田舎町のリアルさの良い面も悪い面も同じ分量だけ書き表している。
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