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「朝日のあたる家」 栗本薫
投稿日 : 2002/01/10 23:21
投稿者 久保田r
参照先
1988年11月10日〜2001年12月25日 (株)光風社出版
「朝日のあたる家」(1)〜(5)

 終に完結───。
 『真夜中の天使』『翼あるもの』から始まった、今西良と森田透の関係が、作者の上にも、読者の上にも、ストーリーの上でも、長い長い時をかけて、一つの完結を見ました。
 思えば遠い道のりで、私が『翼あるもの』を読んだのが今から20年ほど前のことで、作品自体はそれ以前に書かれてあったのですから、今手元にある資料から簡単に計算してみましても、25年以上の月日が経っていることになります。凄いことです。
 そうした長い時間をかけて、一つの完結を見た良と透の関係でありますが、まだまだこれでスタート地点に立ったばかり、と、思うのは、私がこの手の作品世界の読み物に慣れてしまっているからなのでありましょうか。
 良が犯した殺人、良に囚われ続けた透の性にまみれた人生。それらは、二人が真の意味で結ばれるまでの必要にして生まれた過程であり、透が身に付けたありとあらゆる性の手法は、誰にも叶わなかった良の心の鎖を解き放ち、二人は、離れていた長い時を埋めるかのように多くの言葉を交わし、心身共に堅く堅く結ばれ、人として生きる為に、良は、警察に自首します。それは、決して結ばれることのないと思われた二人の愛が生み出した決着でありました。
 これで二人は諸処の障害を越え、これから二人の時間が始まる、という未来を予測させる結びとなっているのですが、二人を取り巻く周囲の環境は、二人をいとも容易く死に追いやれるだけの過酷さを持っており、二人が愛を確かめ合ったからとて「王子さまとお姫さまは幸せに暮らしました」という、安穏とした物語のエンディングとは遠い距離にあると私は思っています。むしろ、ある種似た者同士であるこの二人の「これから」こそ、話の行方として興味深いと思っているのでありますが、実はその「これから」こそが、私たち読者のものであるのかも知れない、とも感じています。
 はっきりと「このシリーズはもう書かない」という断言を感じる終わり方ではなかったように思います。しかし、その反面、島津が透に『愛している』と告白をしたことと、『ふしぎなつかのまの至福に満たされながら、透はゆるやかに、眠りのなかに滑り落ちていった』という表記から、もうこれでこの話は終わり、という予感も感じています。一読者として、二人の「これから」をぜひ作者に書いて欲しい。いや、物語は余韻を残すべきもの。この二つの気持ちがせめぎ合っている。これが正直な感想です。
 『翼あるもの』を初めて読んだ時、私はまだ性の「せ」の字も知らない子供で、ただただ紙の上に印刷された文字を追うだけが精一杯で、その性の過激さばかりに目を奪われておりましたが、20年の歳月を経て、情交の向こうに見える人の意思や衝動といったものが、僅かながら分かるような年齢になりました。そして今、この本を読み終えて思うことは、透の全ては、全て良に通ずるものであったのだ、ということでした 。
 ─── 一方的な性の支配は、愛ある性で解放、生を見る。それは、男女の壁を超えたところにある。───
 この言葉を置いて、この物語のレビューに致したいと思います。
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文庫本
投稿日 : 2002/12/10 23:58
投稿者 久保田r
参照先
 書店で『朝日のあたる家』の文庫本を見た。パっと見た表紙の絵が自分の好きな漫画家さんだったので、思わず手に取ってジっと眺めたのだが、買おうかどうしようか数瞬迷ってから、結果買わずに店を出た。金銭的余裕がないわけでもなかったので、買っても良かったのでは、と、思ったのだが、この本は既にハードカバーで持っていたし、それになによりキャラクター性の濃い絵を描く漫画家・石原理さんの起用にいささかの難を感じたのが原因だった。
 石原理さんは、色っぽい目のかっこいい男を描く、その筋では有名な漫画家さんで、イラストは、小説の内容と相俟って素晴らしい効果を上げる漫画家さんでいらっしゃると惚れているのですが、作家・栗本薫さんとのコラボレーションは果して互いにプラスなのだろうか、と、少々疑問に思った。この作品に登場する美形ロック歌手、良と徹は、長い年月を経て結ばれた関係だけに個性が強く、読む者一人一人に思い思いに描くことが出来るキャラ像によって進む小説である、と、私は思っている。顔の作りを想像出来る余地があるところに、この小説の主人公、良と徹の美形カップルが成立するのだと感じているからだ。
 小説の内容と絵がガッチリとマッチした本は、またこの組み合わせで読みたい、と、思わせる効果がある。作家と絵師との組み合わせは、まさに運命の巡り合わせと呼べる。良と徹が誕生した『翼あるもの』の表紙の絵は、竹宮恵子さんだった。この時の竹宮さんの絵は、登場するキャラクターに的を絞った絵ではなく、本のイメージを想像させるご自分のキャラクターを使用された抽象的な絵だった。それによって、本の中で描かれている暗い心理面が表現されていた。『朝日のあたる家』のハードカバーの表紙は、都会の一室を思わせる部屋のイラストで、徹が生きる夜の世界の「夜明け」をイメージしているように思えた。そして、今回の文庫本。今まで描かれなかった登場人物の顔がそこにある。古くからのこの作品のファンの人にはどのように受け入れられるのだろうか。ある種冒険的な試みである、と、私には感じられた。
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