トップページ > 記事閲覧 
「大奥〜誕生〜 [有功・家光編]」
投稿日 : 2012/11/08 16:43
投稿者 久保田r
参照先
2012年10月12日〜 TBS系列 夜10時放送

<スタッフ>
製作著作:TBS
制作協力/シリーズ設計:アスミック・エンターテインメント
原作:よしながふみ『大奥』(白泉社)
脚本:神山由美子
プロデューサー:磯山晶、荒木美也子
演出:金子文紀、渡瀬暁彦、藤江儀全
音楽:村松崇継
主題歌:MISIA『DEEPNESS』

<出演>
堺雅人/多部未華子/田中聖/平山浩行/南沢奈央/尾美としのり/段田安則/内藤剛志/麻生祐未、他

記事編集 編集
最終話
投稿日 : 2012/12/19 14:57
投稿者 久保田r
参照先
 有功は大奥総取締となり、家光はお玉の子を出産した。生まれた子は姫であったが、もはや女子相続を問題視する者はなく、お玉は「いずれ公方様の父親になれるかも」と喜ぶ。家光は、有功に三人のうちどの姫が将軍の器かと尋ねるが、有功は大奥総取締の立場から答えを避ける。稲葉正勝は、家光より出家して亡き息子の菩提を弔うことを許されていたが、「上様と亡き上様のお二人に使えた己の使命を全うしたい」と大奥に留まっていた。三人の姫たちが健やかに成長していたある日のこと、徳子の相手をしていた家光は、体調を崩してその場に倒れ込む。家光の容態は思わしくなく、床に臥せたまま月日が経ち、亡くなる。次期将軍には、長幼の序が重んじられ千代姫が家綱と名を改めて就くこととなった。

 原作では、家光が亡くなる辺りに関してはあっさりと足早に過ぎているため、そのためドラマの最終話では独自の演出が数多く盛り込まれ、登場人物事たちそれぞれの思惑が流れに沿って丁寧に描かれ、大団円といった仕上がりになっている。見どころは、世継ぎ問題と、正勝の行く末と、家光と有功の会話。家光と有功の会話は、心が深く通じ合っている者同士の特別な空気感が常に流れており、心の通い合いが感じられるシーンとなっていてよかった。有功は、けじめとして大奥総取締としての立ち居振る舞いを決して崩さぬながらも、誰よりも家光の身を案じており、倒れた家光にさりげなく近寄るシーンでは、二人の信頼度が窺えるひっそりとした親密さが感じられてよかった。死にゆく家光の枕元に寄り添い、愛情を込めて手を握りしめ、家光の言葉一つ一つに丁寧に応える姿には、かつて愛し合った二人の永遠の別れの美しさが表れていた。

 正勝の行く末に関しては、想像していたのと違う結末であったために若干驚いている。だがそれは、私が武士の生き方を知らないがための驚きかも知れない。私は、第9話の展開により正勝は生き場所を得たのだと思い込んだ。だが、武士には武士の価値観と倫理観があり、それを全うすることこそが武士としての生き様なのだということをこの結末により思い知った。しかし、心情面では納得しかねている。時代が違うと言えばそれまでだが、妻の雪の姿を見ていただけに悲しみばかりが先に込み上げて来て辛い。同じ結末になるにしろ、もう少し正勝の家族にとって救われる展開があった後のことであって欲しかったと思うしだい。

 正勝の結末にしても世継ぎ問題にしても、最終話に関して私が感じた正直な感想は、少々の後味の苦さ。正勝については武士の生き様という見方があるため、まだ理解出来る余地があるのだが、世継ぎ問題については、無理に入れなくても良かったのではないかと感じている(終盤の有功が家綱を抱きしめるシーンも同様)。世継ぎ問題は、いつの時代にも皆の興味のあるところなのでドラマチックな展開になりやすい。だが、有功が仕切っている大奥ではスキャンダルまみれのドラマが発生することは考え難い。そのため、世継ぎ問題を通して有功の存在をクローズアップすることは、見えなくてもよい有功の無自覚な本音部分まで垣間見えてしまうようで些か残念だった。これではまるで全てが有功のエゴだったのではないか…というのが何となく感覚的に感じられ、これまで描いて来たドラマの壮大さが半減してしまうような思いがして少々残念だった。

 家光と有功の恋愛についても原作よりも遥かに細かく描写された。正勝の存在に至っては有功と対をなす存在としてドラマ独自の設定として丁寧に描かれた。総じて全体的に細かく丁寧に肉付けされた描写が特徴であったが、その配分がほんの少しでも行き過ぎると思わぬイメージの相違の結末へと繋がることがあるということが分かった「大奥<男女逆転>」のTVドラマ化であった。
記事編集 編集
第9話
投稿日 : 2012/12/14 15:09
投稿者 久保田r
参照先
 正式に女将軍となった家光の生活は激変し、表の場で政務に励むことが日常となった。それを受けて元旦の挨拶に江戸城へ集まった諸大名たちの中には女大名が増え、裃姿と打掛姿の入り交じった華やかな席となった。10年もの長き間に渡って影武者を務めてきた稲葉正勝は役目を失い、拠り所のない日々を送る。有功はそんな正勝へ「どうかこれからも上様を見守って下さるよう」と伝衛門を通じて言葉を贈る。家光は、大奥の百名の者に暇を出して吉原で働かせ、市場よりも安い価で女たちに健康な男の体を提供できるようにした。ある日のこと、家光は夜伽の相手として有功を呼ぶも、お夏との間の子を懐妊したために日延べとなる。翌年、女児を産んだ後、再び家光は有功を夜伽の相手として呼び、遂に二人はその時を迎える。だが「やっとこの日が訪れた」と喜ぶ家光に対し、有功はそっと体を離す…。

 ここまでずっと並行して描いてきた有功と正勝の関係性がよりよい形で反映されている第9話。人の心の機微に聡い有功の良さが全編に渡って生きており、正勝の身を案じ、家光の言葉に寄り添い、そして自身の心の内をもきちんと見つめるという濃い内容で見応えがあった。有功と正勝は似たような境遇でありながら、それぞれの務めの立場がはっきりと違うために一見関係性が薄いように見えるが、双方とも精神的な部分では近い場所にあるのを認めているため、互いに気遣いのあるやりとりをするシーンが美しい描写となっていてよかった。有功は、正勝に「死ぬな」の意味を込めた言葉を贈り、家光は将軍という立場からはっきりと直接「死んではならぬ」と告げる。正勝は、自分にとって大奥の中で最も大切な二人から同じ言葉を贈られ、きっと心の内で救われ且つ光栄であっただろうと思う。

 今回の最大の見せ場は、有功が褥を辞退するシーン。これまでも有功と家光の二人きりのシーンは、大きな切なさに覆われる素晴らしいシーンの連続であったが、今回は有功が自身の意志によって褥を辞退するシーンとなっているために身を切られるような痛みのあるシーンとなっていてとても心が揺さぶられた。今までのことは全てこのシーンのためにあったのではないかと思うほど、これ以上ないくらいの切なさに満ちていた。普段決して己の感情を口に出さぬ有功が、”男”としての自分の思いを噛みしめるように切々と家光にぶつける様が愛しく、哀しく、”自分とて一人の男に過ぎぬ”がよく表れていて本当によかった。その思いを受けとめた時の家光の何とも言えぬ表情が良く、このようなことになってもそれでも”愛しいのは有功だけ”が表れていて良かった。このシーンは、二人の男女の関係に終止符をつけるとても大切なシーン。演じた堺雅人さんと多部未華子さんの懇切丁寧な情感豊かな表現を篤と見ることができる。

 そして、初の男の大奥総取締の誕生へ。大奥の長い歴史の中で唯一側室から誕生した総取締が有功であったことは、これまでのストーリーから納得のいくところ。大奥の頂点として皆の前に立った自信溢れる有功の姿は立派であった。また、原作と同じ柄の裃が実によく似合っており、実写化による映像美がよく表現されていた。

 次回はいよいよ最終話。実は原作ではこの辺りは割とあっさりと過ぎている。そのためか今回の第9話は、とても丁寧に人間関係を描いていると感じ取った。作中の息抜き的存在の輝綱と父、信綱とのやりとりも然り。正勝とその妻、雪のことも含め、最終話の丁寧な締めくくりに期待。
記事編集 編集
第8話
投稿日 : 2012/12/12 15:46
投稿者 久保田r
参照先
 病で臥せっている春日局の部屋の次の間に赤面疱瘡にかかった捨蔵ことお楽の方が移り、有功は二人の看病をする。玉栄は、「憎い相手なのになぜ看病するのですか?」と問いつめるが、有功は「大奥で無用の自分が人の役に立てることが嬉しい」と語る。しかし、有功の看病の甲斐もなく捨蔵は息を引き取る。有功の看病の様子を見守っていた春日局は、少しずつ有功に対して心の内を語るようになり、身の上話をするようになる。「私を恨んでいるはず」と問う春日局に対し、有功は「いいえ。私は苦しみを味わった。そのため人の苦しみを理解できるようになった。今はあなたに感謝しています」と答え、その言葉を聞いた春日局は、自分が死んだ後「上様と大奥のことをお頼み申します」と有功に頭を下げる。それに対し有功は「もとより命果てるまで上様に仕える所存」と答える。その頃、稲葉正勝の家では、家督を継いだ正則が赤面疱瘡で亡くなりお家断絶の危機にあった。だが、正勝の妻の雪は、娘に男子の格好をさせてお家を守ってゆくことを決意する。一方、春日局は、息子の正勝と家光とに見守られながら息を引き取った。幕閣たちは、このまま男子の人口が減り続ければ国が滅びることを案じ、遂に女将軍を立てることを決意する。

 有功の立場をメインとしながら春日局の人生と家族関係をクローズアップしている”春日局の回”といった第8話。描写しているシーンは原作のものと同じでありながら、一つ一つのシーンに少しずつTVドラマ独自の台詞と演出が付加されているいるため、いくぶん原作よりも冗長気味になりながらも、その分春日局の人物像を分かりやすく表現し、尚かつ女将軍誕生の瞬間までの道のりをドラマチックに盛り上げる内容となっている。

 自分の人生を大きく変えた春日局との和解とも言うべき今回のような内容は、有功の内面と性格をきちんと踏まえていないと俄には信じ難い展開。有功は、心底お坊さんになるために生まれてきたような人物で、困っている人に寄り添い世のため人のために尽くすことを喜びとする人間であるため、どんな酷い仕打ちをする相手であっても、その渦中は憎いと思いこそすれ時が経てば「あれは私のためになりました。感謝しています」と曇りのない心で言えるような清しい人物。有功にとってはそう思う気持ちに偽りはなく、十人中九人が出来ないと口を揃えるような憎い相手の看病すらもしてしまえるのが有功の強さ。だからこそ有功は、無用者となった大奥内でも多くの者たちから慕われ、凛と顔を上げて自分なりの居場所を作り出している。

 今回のMVPは、春日局を演じた麻生祐未さん。憎まれ役としての立場を保持しながら、病で徐々に弱っていく姿を見事に演じ切っている。弱々しい声音でありながら春日局という人物をしっかりと滲ませた演技が素晴らしく、堺雅人さん演じる有功との対比が綺麗に表れていた。息を引き取る瞬間までのぶれのない演技に感動。

 さて、遂に女将軍誕生。大勢の大名たちの前で声を張る家光を演じる多部未華子さんが、怒ったような口調でやや息継ぎに苦しそうではあったけれども、将軍の威厳を示した堂々としたシーンであったと思う。次回からラストスパート。どのような締めくくりとなるのか見届けたい。
記事編集 編集
第7話
投稿日 : 2012/12/10 17:34
投稿者 久保田r
参照先
 家光は、娘の格好をして澤村伝右衛門を伴って江戸の町の視察に出かける。死人を焼くいくつもの煙を見、土壁のわらを貪る貧しい暮らしの女たちの姿を見、落ちぶれた遊郭の現状を見た家光は、翌朝一番に六人衆を集めて一揆を挫くための策を講じる。玉栄は、有功のたっての頼みで御中臈となることを決め、家光と閨を共にする晩、家光に向かって心の内を吐露する。家光は、玉栄に自分と似ているところがあることを認め、側室とする。江戸城で八朔の義が行われ、松平家の跡継ぎである輝綱は、男装した姿で参じ御礼の口上を述べた。そして、自分と同じように男装している女たちが多いことを見抜く。大奥内では菊見の宴が設けられ、それを見咎めた春日局は有功に苦言を呈すが、有功は支度にかかった費用は全て自分の金で賄っていること、そして一生を大奥に囚われる者たちを慰める宴のどこがいけないのかと言い切る。春日局は、政でも大奥でも誰も彼も自分の言うことを聞かなくなったと憤慨し、体の異変を感じて倒れ込む。有功が春日局の部屋で看病をしていると、正資が血相を変えてやって来て「お楽の方が赤面疱瘡にかかった」と告げる。

 有功と家光の切々とした恋愛のステージから女将軍誕生へのステージへと移行した第7話。冒頭から、娘の格好で外を歩く家光の姿が映し出されており、見た目にもこれまでとはガラリと物語の雰囲気が変わったことを示している。もともと原作はどちらかというと時代物の物語をベースとした進行であったが、TVドラマでは前話まで殊更丁寧に家光と有功の恋愛を描写してきたため、ここから恋愛以外の部分に力を入れた描写となっても何やら格差が感じられて温度差が感じられるのは否めないところ。しかし、原作に沿う形で一通りのことが展開されているため、いよいよ女将軍誕生の瞬間が見られるのも間近といったところ。

 とはいえ、あれほど恋し焦がれた仲の家光と有功の距離感が多少離れたように感じるのは寂しいところ。実は、前話の二人の会話のシーンで「わしの心にいるのはそなただけじゃ」と言った家光に対し、有功が「それはあなたが母になられたからです」と答えた後、家光が凛とした表情で一人で部屋を立ち去るシーンがあり、この歩くシーンがまるで二人の仲が終わったかのような空気となっていて一抹の寂寥感があった。いわゆる心の変化の一区切りを描写したシーンであったと思うが、これはいらないシーンではなかったかと思うしだい。このシーンがあったことにより線引きがなされ、今後は家光は家光、有功は有功というそれぞれの行動の行方を見る展開へと変わりますよと宣言されたようなもので、家光と有功にとって生涯にただ一度きりの大恋愛の余韻を楽しみたいと思っていた自分としては残念なシーンだった。ゆえに、当第7話は最初から引いた目線で見始めることへと繋がった。

 しかし、もしかするとこういう空気作りこそがTVドラマの意図しているところかも知れないと思うシーンが第7話にはいくつかあった。「公家のご子息とも思えぬ浅ましさ」と誹謗したお夏に向かって「お前に有功様の何が分かる」と喰ってかかった玉栄に対し、有功が「お前はええ子や。ありがとう」と言った台詞や、家光に玉栄が見知らぬ僧から「天下人の父になる」と告げられた話をした際、「その僧の言葉通りになればそなたはその方が良いのか?」という問いに対し、有功は躊躇の間も短く「はい」と返答した台詞など。これらは原作にはない台詞のため、TVドラマ独自による分かりやすい方向性を示しているように感じられる。おそらくこういうイメージ付けが、主演を同じ堺雅人さんが務める劇場作品「大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉編]」へと繋がるのではないかと思うしだい。
記事編集 編集
第6話
投稿日 : 2012/12/08 16:18
投稿者 久保田r
参照先
 家光と捨蔵との間に姫君が生まれる。祝いの御膳は、有功の采配により滞りなく進められ、大奥で働くすべての男衆にも餅や酒がふるまわれた。祝いの席で家光は政に関する意見を述べ、重臣たちは上様と呼ぶにふさわしい言動に感服する。家光が男でないことを惜しむ重臣たちの一人、松平信綱は、浮かぬ顔をしていた。信綱は、跡継ぎとなる息子を赤面疱瘡で亡くしたために娘を元服させていたのだ。家光は、姫の父親の名が捨蔵では縁起が悪いとしてお楽と名付ける。だが生来のお調子者である捨蔵は、柿の実を取ろうと飛び跳ねた際に着地に失敗し、庭石に頭を打ち付けて半身麻痺の体となってしまう。一方、稲葉正勝の息子が元服の義として江戸城へやって来る。家光の影武者である正勝は、頭巾を被った姿で数年振りに息子と再会する。席上で、正勝は家光の振りをしたまま息子を近くまで呼び寄せ、労りの言葉をかける。しかしその行為は春日局の目に余り、正勝は後にきつい注意を受ける。家光は春日局の許しを得て再び有功と褥を共にする日々を送るが、三ヶ月の間にも家光に懐妊する気配はなく、再び春日局の手配によって新しい側室が大奥にやって来る。

 母親となった家光と、自身で家光を母親にすることのできなかった有功の、時の経過と共に微妙に立場がずれ始めている二人の切ない恋が描かれている第6話。母親となった家光からは少女らしい面差しが薄くなり、代わりに芯の強い女性の表情といったものが見えるようになった。有功は、依然として穏やかに過ごしてはいたものの、心の内では家光への愛しい思いを強く持っており、捨蔵との会話の後などのふとした拍子に暗い憂いに満ちた表情を見せることが多くなる。

 しかし二人きりの時は、紛れもなく二人の間柄は恋人同士のもので、家光の甘く優しい表情も有功の愛しい表情も、みな相手のためだけの表情となっていてとても良かった。有功は、誰に対しても分け隔てなく接しているように見えて、家光と会っている時にはやはり家光にだけ見せる特別な表情となっていて良かった。おそらく大奥の中で最も微妙な立ち位置にいる有功であるが、自分の境遇を受け入れひたすらに家光への思いを胸に秘める姿が健気で切なくて胸が締め付けられるようであった。

 今回も正勝が活躍していて見応えあり。頭巾を被って息子と会うシーンは、家光の振りをしながら父親としての言動が滲み出ており、ぎりぎりのところで抑えている感じがよく表れていて良かった。また、有功と家光のことで春日局に詰め寄るシーンも、二人を思う気の優しさが表れていて良かった。

 脇では、松平信綱の妻を演じた生稲晃子さんが、原作のイメージとぴったりと合っていてナイスキャスティング。イメージと合っていると言えば、カメラワークが原作と同じ画が多くて好印象。今回のTVドラマは、原作よりも有功と家光の恋愛に重点を絞って描いているため、独自の演出も多く見受けられたが、話の筋のイメージはほぼ原作通りなところが長所。このまま後半の展開にも期待したい。

 さて、いよいよ女将軍誕生へ。家光と有功の関係もまた変化してゆく。どこまでも切ない関係の二人に注目。
記事編集 編集
第5話
投稿日 : 2012/11/30 15:49
投稿者 久保田r
参照先
 大奥に新しい側室として春日局が見つけてきた捨蔵がやって来る。捨蔵は、女たらしとして過ごして来たために教養もなく仕草やも立ち居振る舞いまでもが雑であるため、春日局は有功に捨蔵の教育係を命ずる。一見、穏やかに過ごしているように見える有功と家光であったが、二人の心は他人には分からぬ奥深いところで結びついており、共に果てる夢を見てはそれを幸せに思う切なく危うい心の日々を送っていた。そんなある日、大奥に正勝の妻子が春日局を訪ねてやって来る。春日局は留守と偽って面会を拒否し、正勝は物陰からこっそりと妻子の様子を見守り、面と向かって会えぬ境遇に苦悩した。ある日のこと正勝は大奥内で亡くなった若紫にそっくりの子猫を拾う。正勝は、子猫を見つめながら有功と家光の心が穏やかである筈がないと村瀬に告げる。有功の部屋で若紫そっくりの子猫を見た玉栄は驚愕して御膳をひっくり返してしまう。道場で素振りをしているところへ有功がやって来て「若紫を手にかけたんは、お前やな?」と問い質す。認めた玉栄は、有功に叱ってくれるよう求めるが、有功は静かに語り続ける。そしてとうとう捨蔵が家光と寝所を共にする夜がやって来た。その夜、有功は…。

 有功と家光の悲恋を、懇々と切々と痛々しく描いている第5話。前話のクライマックスシーンから始まり、その流れを引き継いで有功の胸の内に秘めている心苦しい感情が全編に渡って描かれており、見ている方も終始悲しい気持ちに覆われて涙なくしては見ることのできない恋愛悲話が懇切丁寧に描かれている。相思相愛の男女が引き裂かれるのはこの上ない不幸。ましてや恋敵となる男を教育せねばならない有功の胸中を察すると、胸が締め付けられて苦しくなる。”世継ぎのため”に自己犠牲を強いられる有功と家光の置かれている境遇に涙する内容となっている。

 己の負の感情を極力表に出さない有功の感情をナビゲートする正勝の存在が、殊の外ぴったりと符合していてよりよい効果を上げていて良かった。二人とも愛する者、愛する家族がすぐそばにいるのに触れることの叶わぬ苦悩といった悲しみがよく表れていて良かった。己の境遇を通して有功の胸中を慮ることのできる正勝の方が、人間的により繊細かも知れない。きっとおそらくそういう正勝が終盤には救われるであろうことを望む次第。

 今回もTVドラマ独自の演出が多い内容であったが、みんなの表現がよくて良かった。感情が表に出やすい玉栄を演じている田中聖さんは良かったし、生来の明るい性格が特徴の捨蔵を演じている窪田正孝さんも良かったし、寝所でその捨蔵を蹴飛ばした多部未華子さんも良かった。多部さん演じる家光は、有功にだけは優しい表情を見せるのでその健気さに胸がきゅんとなった。

 堺雅人さんが、今回も良い表現をたくさん見せてくれている。心の内にある暗い部分を必死に押し込もうとする姿が切なくて仕方がなかった。表向きには穏やかで、一人のシーンでは憂いのある表情で。心と体で有功を演じてらっしゃる姿が本当に素晴らしかった。その有功の姿を収めるカメラの動きも滑らかで効果的で見る者の心情をよく導いているし、編集も鮮やか。そして音楽の使い方も効果的。見せ場の多い第5話。
記事編集 編集
第4話
投稿日 : 2012/11/28 16:58
投稿者 久保田r
参照先
 家光と有功の蜜月から褥を辞退せよと追い詰められるまでを描いた第4話。相思相愛となった家光と有功は、大奥内で仲睦まじさが評判になるほどの蜜月を過ごしていた。しかし、一年経っても家光に懐妊の兆しがなく、春日局は不機嫌さを表し始める。家光は、自分の部屋にいる時は姫の格好をして正勝を相手に政の話をし、有功は、大奥の者たちが集まった場で物語の講義をするなど心穏やかな日々を送っていた。そんなある日、大奥内に変化が訪れる。切腹した重郷の部屋を春日局が掃除をさせているのを見た他の御中臈たちは、有功の部屋子の玉栄に不穏な事態を告げる。そして、春日局に呼び出された有功は、新参の捨蔵の前で褥を辞退するよう迫られる。抵抗した有功であったが、有功の訴えは退けられ、有功は寝所で家光にそのことを告げる。家光は激しく動揺し、有功に過激な言葉を投げつけるが、有功の「殺してください」の言葉に「死んではだめ」と取りすがる。

 堺雅人さんの表現力が素晴らし過ぎる回。とにもかくにもラストの堺雅人さんの表情と間の取り方と声の表現がとても素晴らしい。私は、この回を見て有功役が堺雅人さんで本当に良かったと心底思った。涙が溢れ出て止まらなかった。「殺してください」のこの一言のなんとも儚くも切なくも豊かな表現力か。この一言に有功の胸中が表れており、聞いた瞬間に胸が締め付けられるような痛みが込み上げた。この一瞬に家光と一緒に死ねたたら有功はどんなにか幸せであっただろうか。また家光の手で死ねることができたなら…。それもこれも叶わぬ望みが滲み出ている素晴らしい表現力だった。堺雅人さんは、始終有功という人間性のまま恋愛という人間の感情が真っ向に表れる難しい心の動きを演じていて良かった。有功のような人間は希有な存在で、本来は御仏に仕えようとして何事も受け入れる心穏やかな清しい人間であったところへ、無理矢理大奥へと連れて来られ、多くの人間たちの黒い感情が渦巻く中へ閉じ込められ生き方に歪みが生じた。生き方を変えられた悲しみと、その中で見つけた愛する人との接触さえも奪い取られた悲しみ。これらのことがよく伝わって来る第4話だった。

 今回は、家光と有功の恋心の描写に絞って輪郭を至極丁寧に描いているため、TVドラマ独自の演出が多い。春日局の冷徹さを際立たせるためか正勝のことにまでスポットを当て、有功と家光を含めた三人の境遇の接点といったものが窺える内容となっている。原作では、正勝は家光の後を追う設定となっているが、第4話を見た感じではどうやら原作とは異なる方向へ行きそうな流れ。もしかすると救われるのかも知れない。もしそうなってくれたら見ている方もどんなにか救われることであろう。今後の展開に目が離せない。

 追記。
 今回も撮影が鮮やか。クライマックスのカメラの切り替えが人物の心理状態を表現していてお見事。
記事編集 編集
第3話
投稿日 : 2012/11/22 18:06
投稿者 久保田r
参照先
 男女逆転大奥創成の過渡期を描いた血腥い内容の第3話。女将軍家光と有功の心が引き合うまでの葛藤のドラマが描かれている。家光は、有功の部屋へ訪れた際に昔娘を産んですぐに亡くしたことを告げる。それを聞いた有功は労りの言葉をかけ、以来、家光は度々有功の部屋を訪れては子猫の若紫と遊ぶようになる。ある日、若紫が失踪し、有功と玉栄が探し当てると、御中臈の重郷が若紫を愛おしそうに抱いているのを目撃する。重郷に恨みを抱いている玉栄は、ある行動を起こす。ある朝、重郷の部屋の前庭で若紫が変わり果てた姿でいるのを発見される。家光は手討ちにしようとするが、有功が止め、春日局の一言で重郷は切腹する。若紫の墓前で家光は念仏を唱えるのを拒否する。有功は家光に弔いの意味を諭すが、その心は届かず、有功は家光の言葉の端々から江戸の女たちの髪を切り取る通り魔が家光ではないかと確信し、問いただす。家光は、伝右衛門に命じてやらせていたと認め、遂に有功は声を荒げて家光のやりようを非難する。その夜、有功ら御中臈たちに家光から女物の着物が届き、女装して参じるように命ぜられる。着物を見た有功は、正勝に家光の生い立ちを尋ねた。

 冒頭から夜の誰もいない真っ暗な部屋から赤ん坊の泣き声が段々と大きくなるというオカルトめいた雰囲気で始まり、伝右衛門が女の長い髪をだらりと持って暗い夜道を歩いているシーンなど、心理的に怖い雰囲気で作られている回。おおむね原作通りの展開で進んでいるが、所々でTVドラマ独自の演出やシーンが追加という形で盛り込まれており、原作のストーリーの流れを一度分解し改めてTVドラマ用に組み立て直した手間と丁寧さが表れており、TVドラマなりの分かりやすさと表現力がよい形でまとまっていたように思う。

 玉栄の起こした行動と、家光が将軍の体に傷をつけた男を手討ちにしたくだりは、いさかかどぎついシーンではあるが、作品の歴史上これらのことがないと後世の大奥へと繋がらない大事なシーンであるので、きちんと原作のままに描写したことに率直によくやったという思い。ただし、ラストの有功の女装姿がなかったのは物足りない。家光の女としての自分を踏みつけられて来た本当の悲しみを知った有功が自らも女装することで、二人は同じ悲しみの位置に立つという大事なシーンであったがゆえにこれは入れて欲しかったところ。

 次回の仲睦まじい有功と家光の姿に期待。

 追記。
 伝右衛門役の内藤剛志さんの女装がベリーナイス!
記事編集 編集
第2話
投稿日 : 2012/11/09 16:55
投稿者 久保田r
参照先
 有功が大奥に入ったばかりの頃を描いている第2話。家光から頬を打たれ、正勝から事の仔細を聞いた有功は、一生大奥から出られぬことを宣言される。ある夜、就寝中に家光が訪れ、真っ白い子猫を有功に授ける。有功は子猫を若紫と名付けた。正資の案内で有功は御中臈の3人と対面。その席で有功は論語の「君子は泰にして奢らず」を引き合いに出し、重郷の反感を買ってしまう。有功の夕餉の膳に鼠の骸が入れられるという事件が発生。膳所に怒鳴り込みに行った玉栄は、重郷らから性的暴力を受ける。別の日、有功は重郷に連れられて道場へと向かい、明慧を斬った伝右衛門と再会。伝右衛門は、「仇で人を打つことはできない」と言った有功に素振り500回を命じるが、有功は自ら「1000回」と申し出、夜までかかって1000回をこなし倒れ込む。

 未知の世界へと強制的に連れて来られた戸惑いと試練が波状攻撃のごとく描かれている有功受難の回。有功がこれまでの人生で経験したこともなければ想像したこともない世界が現実のものとして目の前で繰り広げられ、且つ巻き込まれて行く感じがよく表れている。描かれているのは男女逆転大奥の創成の頃のことであるので、家光は城内では常に男の格好をし、また家光が女であることを知っているのはごく一部の者たちだけであるため、有功はどこを向いても自分の味方になってくれるような存在がなく孤立感を深めるばかり。たった一人の味方の玉栄と身の縮むような思いを噛みしめながらここにいるしかない運命に耐えている感じがよく表れていた。

 人に合わせて京ことばと江戸ことばとを滑らかに使いこなす堺雅人さんの演技力が流石。顔の表情と体の動きとに合わせ、声の表現力までも実に豊か。まさに役を全身で演じている。歴史的な広がりを感じさせる音楽もメロディーが美しくて好印象。そして、カメラワークが滑らかでよかった。基本的に座っているシーンが多いが、ゆっくりとして滑らかなカメラワークが動きを感じさせているし、また人物の表情を見せる大事なシーンではしっかりとカメラを止めて役者を捉えており、人間ドラマとしての見せ場をきちんと作っていた。
記事編集 編集
第1話
投稿日 : 2012/11/08 16:45
投稿者 久保田r
参照先
 2010年10月に劇場公開された男女逆転『大奥』のTVシリーズ作品。映画では八代将軍吉宗の時代を描いたが、TVドラマでは男女逆転が誕生した三代将軍家光の時代を描く。その流れを組んで2012年12月には五代将軍綱吉の時代を描いた映画が公開される。

 劇場作品の監督を務める金子文紀さんを演出に据えているためシリーズの空気感作りには申し分なし。人物以外の背景や建物の作りは一般的な時代劇のそれと同じでありながら、御鈴廊下にずらりと並ぶ裃姿の若い男たちの姿は爽快。その中心を綺麗な打掛を着た女将軍が堂々と歩く姿こそが、この男女逆転『大奥』の醸し出すえも言われぬ魅力。

 堺雅人さん演じる有功は、原作にあった清しい印象が予想以上に表現されていてとてもよかった。公家出身という品の良い立ち居振る舞いと仕草さが滑らかに表現されていて好印象。おそらく堺雅人さんはしっかりとした有功像を作ってくるであろうという読みは当たり、役作りの意識の高さが窺える人物像に仕上がっている。

 また玉栄役の田中聖さん、澤村伝右衛門役の内藤剛志さん、松平信綱役の段田安則さん(そういえば段田さんはテレビ朝日系木曜夜9時放送の「Doctor-X 外科医・大門未知子」にも出演中でこの秋はドラマに忙しいご様子)、稲葉正勝役の平山浩行さんらが演ずる人物像もおおむねイメージ通りでブレがなくて良い感じ。その中にあって全てを裏で取り仕切る春日局役を演じる麻生祐未さんが半端ない存在感で流石。見た目はほっそりとしていても圧倒的な迫力で場を強引に収める役どころをピシっと演じている。あの鋭い声は、このドラマのもう一つの魅力かも知れない。

 第1話では、有功が出家し江戸に下り軟禁され還俗させられ一年後に大奥で家光に会い頬を打たれるまでを描いている。三代将軍の時代とはいえ未だ戦国時代の名残りのある血腥さが描写されている。”逆らえば死”の世界観。その中で紡がれる女将軍家光と有功の物語に期待。
記事編集 編集
件名 スレッドをトップへソート
名前
メールアドレス
URL
画像添付


暗証キー
画像認証 (右画像の数字を入力) 投稿キー
コメント





- WEB PATIO -